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『明智小五郎回顧談』著者、平山雄一さんインタビュー「明智小五郎が実在の人物ならこう語る。」

ひらやま・ゆういち●1963年、東京都生まれ。歯科医、推理小説研究家、翻訳家。著書に『江戸川乱歩小説キーワード辞典』(東京書籍)など。『明智小五郎回顧談』は初めての創作。自室はホームズの部屋を再現した作りになっている。

撮影・新井孝明

江戸川乱歩の推理小説に登場する名探偵・明智小五郎は、もちろん乱歩が創作した人物。しかし明智も怪人二十面相も実在し、その活躍が乱歩に題材を提供していた!というのが、この不思議な小説だ。

「明智小五郎は明治の末に生まれて大正のころ旧制一高から東京帝大を経て、探偵の道を歩みだしました。怪人二十面相と対決を繰り広げたのは、年代記的に昭和の初めごろが中心です。その彼が還暦をすぎた昭和30年代、警察の資料作りに協力を求められて渋々ながら昔話をしたら伝記として面白いだろう。そう思って、明智小五郎の回顧談をまとめました」

作者の平山雄一さんは歯科医をしながら、推理小説の研究・翻訳・創作をしている。

「開業医だったコナン・ドイルが暇なときシャーロック・ホームズの物語を書いたのと同じですね。知名度は違いますが(笑)」

ホームズを実在の人物として、その事跡を年代記にまとめる研究が欧米で盛んだ。同じように明智小五郎の年代記を作成したら……今から30年ほど前、大学生だった平山さんは夏休みに集中して年代記を編んで、同人誌に発表した。現在『明智小五郎事件簿』全12巻(集英社文庫)が年代順に事件を配列しているのは、この平山さんの研究が元になっている。

「一高で明智小五郎の1年上には芥川龍之介や菊池寛、久米正雄といった『新思潮』の錚々たる面々がいました。明智小五郎が育った時代背景がわかると、推理小説の楽しみが増すでしょう?」

架空のノンフィクションのように、後の文豪と袖振り合う明智の学生時代のエピソードを読むのが楽しい。団子坂で起きた密室殺人の謎を明晰な頭脳で解き、その縁で乱歩と知り合った(後に乱歩が『D坂の殺人事件』として発表)あたりから、皆が知る明智小五郎の知られざる面が語られる。

「あのシャーロック・ホームズとも関わり合いますし、怪人フー・マンチュー博士も出てきますし、ちょっとやりすぎですね(笑)。でも、名探偵や怪人が活躍する時代は過ぎ去り、科学捜査の世の中に変わったというのが晩年の明智の考えなんです。昭和30年代、孤独に闇を抱えて過ごしています」

そんな明智小五郎のところへ、かつてのライバルである怪人二十面相が姿を変えて現れる。

「二十面相は当時40代の後半ですが、55歳定年の時代ですから、今と違って人生の決算期に入っています。かつてのライバルに何かを期待している節もある。老境の切なさを感じてください」

ホーム社 2,200円

『クロワッサン』970号より

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