くらし

『関係人口をつくる』著者、田中輝美さんインタビュー。ローカルを救う第3の道、関係人口とは?

たなか・てるみ●1976年、島根県生まれ。地元の地方紙で記者として活躍後、独立にあたり、地域のことを地域に住みながら発信したいとローカルジャーナリストを宣言。著書に『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』(ハーベスト出版)など。

撮影・三東サイ

「関係人口」という聞きなれない言葉が気になり手に取った本書。地域の活性化に取り組む現場から生まれたまだ新しいキーワードだ。

「簡単にいうと“観光以上、定住未満”。人口減少が切実な地域にとって、これまで目指していたのは移住を促す“定住人口”の獲得でしたが、それはハードルが高いうえに全国で少ないパイを取り合うだけ。とはいえ、観光に代表される“交流人口”は短期的で真の力にはならない。第3の道“関係人口”は、住みはしないが『地域づくりがおもしろい』と積極的に仲間になるような関わり方。地方を救うあり方と注目されています」

著者の田中輝美さんは、地元の島根に住みつつ、地域の情報を発信するローカルジャーナリスト。

「住人でないのは交流人口も関係人口も同じですが、交流人口は消費者としてお金を払い、地域からおもてなしされる存在。一方、関係人口は一緒にイベントを運営する側に立ち、打ち上げにも参加するような感覚なのが違いです」

20年以上も人口減少に悩んできた島根県は、この分野では最先端。6年前から東京で開催する「しまコトアカデミー」という講座を詳しく紹介しているのは、これがまさに関係人口を生み出す仕組みだから。名所旧跡を教える観光案内所ならぬ、地域に住むキーマンや現地の居場所とつなげる“関係案内所”の役割を果たしているのだ。

「講座を通して驚いたのは『自分はふるさと難民』という若い世代の声。私たち世代にとって出ていく場所だったふるさとに、今の若い人は新しいまなざしを向けていて、人のつながりが温かく、おかえりとただいまが言える場所だという。自らの出身地は、上京した親が暮らす都市の郊外で、地元の学校に行っていない場合も多く、地域のつながりが薄いんですね。もっと人と触れ合えるふるさとが欲しいという意識になっている。時代は変わったなと感じました」

こうした取り組みのおかげで、ローカルのほうも、移住することを求めなくてもいい、おおらかなつながりを理解しはじめた。

「うれしいのは、都市の人たちが移住できないことを後ろめたく思わなくていいんだと言ってくれたことです。自分たちも楽しみながら力を貸してもらえれば、住むだけが方法論じゃないということを私は強く伝えたかったので」

関係人口なら、複数の地域を応援できるという利点もある。名前が与えられたことでわかりやすくなった今、これなら私にもできそうと、読後にはなんらかのアクションを起こしたくなるはずだ。

木楽舎 1,400円

『クロワッサン』969号より

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