舞台上以外も、楽屋の鏡前での様子、歌舞伎の台本に書き込まれた直筆、息子の金太郎さん(当時)に化粧を施すところなど、貴重な一瞬が捉えられている。最小限の機材で注文もつけず、約17年の間に「こんな感じです」と確認したこともないというが、二人の間に絶大な信頼関係があるのは明白だ。野村さんは幸四郎さんをどんな人だと思うかと尋ねると、
「すべてが歌舞伎の方だなあと。話すことも何もかも、本当に歌舞伎一筋。指も身体つきも、すべて“歌舞伎仕様”になっているんじゃないですかね(笑)」
長年の中でも印象に残っている舞台は、東大寺奉納歌舞伎(’08年)で富樫左衛門役。平城遷都1300年記念、父・九代目松本幸四郎の勧進帳1000回目の公演だ。
「染五郎さんの気迫が圧倒的で、窓の外から楽屋を撮影しました」