『十代目松本幸四郎 写真集「残夢」』著者、野村佐紀子さんインタビュー。「約17年の撮影で、育てていただきました。」 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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『十代目松本幸四郎 写真集「残夢」』著者、野村佐紀子さんインタビュー。「約17年の撮影で、育てていただきました。」

のむら・さきこ●1967年、山口県生まれ。九州産業大学卒業。’91年より荒木経惟氏に師事。国内外の写真展で精力的に作品を発表。最新写真集に『Ango』『愛について』など。5月10~20日、東京・渋谷ヒカリエにて、本書の関連写真展が開かれる。

撮影・青木和義

37年ぶりの三代同時襲名で話題となった、十代目松本幸四郎の豪華写真集。三代目松本金太郎として務めた6歳の初舞台から七代目市川染五郎の最後の舞台まで、歌舞伎以外の現代劇も含めた593役を収録している。そのうちの大半、約17年分を野村佐紀子さんが撮影した。きっかけはフォト&ダイアリー『27︱市川染五郎』や同時期の雑誌連載で依頼されたこと。

「それがいつからか毎月舞台を撮影することになって。今でも歌舞伎は、舞台上を撮影する日と楽屋を撮影する日で、最低月に2回は撮らせていただいています」

男性ヌード写真が広く知られる野村さんだが、撮影スタイルは、他の撮影とまったく異なるという。

「対象者とやりとりをする撮影ではなく、完全に“観ているだけ”のスタンス。もちろん初めてで慣れるまでは大変でしたが、それはとても面白い過程でしたね」

舞台上以外も、楽屋の鏡前での様子、歌舞伎の台本に書き込まれた直筆、息子の金太郎さん(当時)に化粧を施すところなど、貴重な一瞬が捉えられている。最小限の機材で注文もつけず、約17年の間に「こんな感じです」と確認したこともないというが、二人の間に絶大な信頼関係があるのは明白だ。野村さんは幸四郎さんをどんな人だと思うかと尋ねると、

「すべてが歌舞伎の方だなあと。話すことも何もかも、本当に歌舞伎一筋。指も身体つきも、すべて“歌舞伎仕様”になっているんじゃないですかね(笑)」

長年の中でも印象に残っている舞台は、東大寺奉納歌舞伎(’08年)で富樫左衛門役。平城遷都1300年記念、父・九代目松本幸四郎の勧進帳1000回目の公演だ。

「染五郎さんの気迫が圧倒的で、窓の外から楽屋を撮影しました」

その貴重な一枚も収められている。本が仕上がったとき、幸四郎さんは、時間をかけて一ページ一ページを繰っていたそう。

「その様子に私のほうがぐっと来てしまって(笑)。ああ本当にずっと歌舞伎なんだ、と。でもそういう人生は羨ましくもありますよね」

完成してから、スタッフのひとりからはこうも言われた。

「この本のグラフィックデザイナーの町口(覚)さんに『17年、撮ってきて、育ててもらったんだね』って。ああ、そのとおりだなと。染五郎さんを撮ったこの期間がなければ、私の写真はきっと変わっていたと思います」

Akio Nagasawa Publishing 1万5000円(税込み)

AKIO NAGASAWA店頭(銀座)およびオンラインショップ(www.akionagasawa.com)ほか、銀座・代官山・梅田 蔦屋書店、歌舞伎座内で販売。初版限定2000部、エディションナンバー入り。幸四郎さんの手による前書きも収録。

『クロワッサン』969号より

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