『いちのすけのまくら』著者、春風亭一之輔さんインタビュー。「“落ち”の文が決まらないと、もやもやします。」
撮影・中島慶子
若手実力派の代表として、最もチケットの取れない落語家のひとりといわれる春風亭一之輔さん。『いちのすけのまくら』は落語の本題に入る前のイントロ、通称「まくら」を文章で綴ったエッセイ集。2014年から週刊誌で連載している作品のなかから100編が紹介されている。
「基本は喋る感じで書こうという意識があります。そのほうが使い回しができますから(笑)。ただ高座で話すまくらは出来事について順を追って喋る感じですが、文章の場合はもっとディテールを加えるようにしています」
お年玉を巡っての税務署員とのやりとりを描いた「税金」、褒めてくる人への落語界での教訓を描く「お世辞」、あるいは子どもの頃の三角ベースの思い出を記した「監督」など“お題”がついた1300字ほどの短文は、落語でいうところのくすぐり(ギャグ)を入れながら最後には一之輔さんならではの気の利いた“落ち”がついている。
「落ちが決まらないと、もやもやしますね。締めの文章が浮かばなくて、一日うんうん悩んでいることもあります」
書くのは移動中の車内や喫茶店。その際の道具はガラケーという。
「最初は家のパソコンで書こうと思ったんですが、よく考えたら家には長いこといないし、いる時は酔っ払ってる(笑)。結局出先でやるしかないなと。僕のガラケーは13字が1行なので100行ぐらいにまとめて送信しています」
書くことと喋ることの違いを尋ねると、即座に「反応ですね」と返事が来た。
「喋っちゃったほうが手っ取り早い。物書きの人はすごいなと思います。だから書いている時はいつも『これで受けるのか』とびびっていますね」
歯切れのいい文章は一之輔さんのテンポ良い落語をほうふつとさせる。噺家の日常や考え方などを記したまくらは、落語の魅力を知る際の参考になるはずだ。
「連載を始めて半年で気づいたのが、自分の引き出しの少なさ。それからはタンスの引き出しを解体して、それこそ取っ手も燃料にしながら自分の内面を吐き出すようにして書いています。もし本屋さんで、ちょっとフォトジェニックな表紙が気になったら、まずは手に取ってほしいです。そして『まくら』とあるので、実際に高座で喋る噺なのかなと勘違いして読み進んでもらえればうれしいですね。どのまくらから入ってもらっても大丈夫ですから(笑)」
朝日新聞出版 1,500円
『クロワッサン』969号より
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