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くらし

『注文をまちがえる料理店』著者、小国士朗さんインタビュー。「寛容な空気は誰にとっても心地いいんです。

おぐに・しろう●1979年生まれ。テレビ局ディレクター。『注文をまちがえる料理店』は、福祉、料理、デザイン、IT、資金調達などの一流が結集し、昨年6月、都内の小さなレストランで限定開店。今後は一般社団法人としてノウハウの伝授も。

撮影・森山祐子

注文した料理が正しく届くかわからない。そんなレストランを企画した顛末をまとめた本書。注文を取るホールスタッフは、認知症の状態にあるおじいさんやおばあさんなのだ。テレビ局のディレクターである小国士朗さんは、ある認知症の介護施設の取材時、入居者が作る献立が、ハンバーグのはずなのに餃子になって現れた場面に遭遇。誰も気にせず受け入れている様子に、むしろ間違って料理が出てくるのを楽しむ店があってもいいじゃないかとひらめいた。その思いつきに各界のプロが賛同、2日間限定の店を開くに至った。

「認知症のことをよく知らない若い世代も、おもしろい、行ってみたいと反応し、海外メディアからの取材依頼もたくさん。こんなユニークな取り組みがある日本ってすごいねと世界中から賞賛の声が。不謹慎だとか認知症の人を見世物にするなという批判を覚悟していたので、当日は怖くて吐き気がするほど行きたくなかった。でも、その一歩を踏み出したことで、想像以上に多くの人が興味を持ってくれた。実現できてよかったです」

はなから「間違えるかも」と宣言されることで、客は半ばそれを期待するようにドキドキ待つことに。取り違えを客同士で解決したり、まあいいかと鷹揚に構えたり。満足度の高い3種のメニューは均一料金だし、「まちがえる」の「る」が転んだ店名や茶目っ気ある舌出しマーク(通称“てへぺろ”)というデザインも絶妙。お膳立てが見事なおかげで、働く人も和やかに、訪れた客に寛容のスイッチが入る。

「この料理店は大成功して、いろいろな感動や共感も生みましたが、あくまで非日常です。現実に戻れば、認知症の本人も介護する家族も支える福祉の専門家もたいへんなことは変わらない。日常のほうが圧倒的な濃度ですから。それでも、ささやかな非日常が、本人や家族にハッピーな時間をもたらし、そのままを受け入れてくれる客と店のおおらかな空気に、ここにいていいんだと感じられたのです」

ウェイターを務めたあるおばあさんが日当を手にこっそり施設を抜け出しコンビニで買い物をしていたという後日談は、自分で稼いだお金を使えることがどれほど誇らしくうれしかったかと胸に迫る。

「ゆくゆくはマタニティマークのように“てへぺろ”バッジが広まり、普通のカフェの店員さんがこのバッジをつけていれば軽度の認知障害かなと周囲が察して対応するという、認知症の人が日常に溶け込む風景になるのが理想です」

あさ出版 1,400円

『クロワッサン』968号より

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