くらし

『職業は忍者 激動の現代を生き抜く術、日本にあり!』著者、甚川浩志さんインタビュー

日本文化で世界の未来を変える活動です。

じんかわ・ひろし●1969年、大阪府生まれ。野人流忍術「野忍」主宰。日本文化の神髄である忍術を組織経営や教育に生かす活動に取り組む。東国の武将に仕えた忍びに着目し、北条氏に仕えた小田原風魔忍者のブランディングを行っている。

撮影・千葉 諭

忍者の甚川浩志さんに話を聞くには山里の庵まで行かねばと覚悟したが、連絡を入れたら都心に用がある日に編集部へ来てくれた。写真のとおり、黒装束で。

「この服装だと、ほとんどの方から“本業は何ですか?”と尋ねられるんですが、忍者が本業です」

エンターテインメントではなく、現実に役立つ忍術を伝える仕事とは何か。職業忍者の役割を自ら解き明かしたのが本書である。

「最近は日本中どこにでも外国の方が訪ねてきますね。私が忍術体験を実施している山里は東京の西の外れにありますが、忍術を学びに欧米の方やアジアの方がよく来ます。先日はサウジアラビアの方が流暢な日本語通訳を立てて電話してきて、アクセスを説明するのが大変そうだなと思ったら、“タクシーで行きますので大丈夫です”といって都心からまっすぐ来ました。世界をリードする先進層が日本文化にヒントがあると感じて忍術を学びに来るんですね」

忍術を学んで競争に勝ちたいということだろうか。甚川さんによると、そうではないらしい。

「勝者と敗者で成り立つシステムに限界を感じて、次の何かを見つけるために忍術を学びに来る外国人が増えているんです。善と悪、敵と味方に分ける二元論で発展してきた文明が危機に瀕していると感じる方にとって、敵も味方も一つのものと観想する忍術なり日本文化なりが新たな価値の源になる。未来への可能性として学びに来る方に忍術を広めるのが私の職業です」

少し質問を変えて一般の女性に忍術がどう役立つか聞いてみた。

「人間関係に役立ちますね。1対1の諍いにとらわれず、1対多として状況を把握することができるようになると、家庭や職場、地域などの人間関係に有効な対処がしやすくなります。忍者は相手に勝つことを考えるより、お互いを生かすことを考えるんです。敵に囲まれたとき、1人を討つことに拘泥すると横や後ろから斬られますよね。それよりも全体の把握が重要です。逃げるのが有効な場合は逃げるし、戦って敵を殲滅できたとしても係累がまた襲ってくる可能性をも考慮に入れる」

なんとなく、忍術のどこにヒントがあるか見えてきたかも。

「忍者体験プログラムに参加する方から“水の上を走れるようになりますか?”と質問されたら、“簡単ですよ”と答えます。そこが川なら前日に石を置いて、足場を作るだけですから(笑)。術は術として興味を持ってもらって、やがてより本質的な考え方をつかんでもらうことが目的です」

新評論 2,000円

『クロワッサン』968号より

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