暮らしに役立つ、知恵がある。

 

広告

酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.5──乾いた山西、黒酢の香り

中国料理愛好家・酒徒さんの上海暮らしでみつけた美味とおうちで作れる小さなレシピ。

イラストレーション・小野寺光子

酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.5──乾いた山西、黒酢の香り

6月中旬、上海は梅雨入りした。

長江下流域の湿気は、実に手ごわい。空気が肌にまとわりつき、身体の奥まで水を含んでいくようで、むくみ、だるさ、頭痛、肩こりと、こちらの元気をじわじわ奪っていく。上海で最も苦手な季節である。

そんな湿気に耐えかねて、端午節の休みに北方へ逃げ出した。行き先は山西(さんせい)省の太原(たいげん)と平遥(へいよう)。着いてみれば、空はからりと青く、風は乾いている。身体がふっと軽くなった。

平遥は、明清代の城壁に囲まれた古城である。かつて山西商人が全国に名を馳せた時代は、金融の中心地でもあった。城門をくぐると、灰色の瓦屋根と古い街並みが続き、歩いているだけで楽しい。夜になれば紅い提灯がともり、やや観光地めいてはいるが、それも旅の浮き立つ気分に合っていた。

山西と聞けば、まず思い浮かぶのは麺である。刀削麺、手擀麺、剔尖、抿尖、擦尖、猫耳朵、揪片、餄餎麺、栲栳栳。削る、こする、押し出す、つまむ、ちぎる。小麦粉や雑穀を自在に操る麺天国だ。とはいえ、酒飲みの私は炭水化物中心の土地だと思い込み、訪問を後回しにしてきた。今となっては、不明を恥じるほかない。

明清代の城壁がほぼ完全に残る平遥古城。乾いた風に吹かれ、城壁を歩く
明清代の城壁がほぼ完全に残る平遥古城。乾いた風に吹かれ、城壁を歩く
山西は麺天国。四碗それぞれ、原料も製法も味付けも異なる。数日では食べ尽くせない多彩さ
山西は麺天国。四碗それぞれ、原料も製法も味付けも異なる。数日では食べ尽くせない多彩さ
熟成黒酢の販売所。三年、五年、八年と熟成年別に並び、敷地には酢の香りが満ちる
熟成黒酢の販売所。三年、五年、八年と熟成年別に並び、敷地には酢の香りが満ちる
明清代の城壁がほぼ完全に残る平遥古城。乾いた風に吹かれ、城壁を歩く
山西は麺天国。四碗それぞれ、原料も製法も味付けも異なる。数日では食べ尽くせない多彩さ
熟成黒酢の販売所。三年、五年、八年と熟成年別に並び、敷地には酢の香りが満ちる

山西は、麺だけの土地ではなかった。心をつかまれたのは、むしろ発酵の味である。山西名物の老陳醋(ラオチェンツー熟成酢)が料理の中にも巧みに使われ、塩と醤油を軸にした北方らしい味に、黒酢の香りと酸味をすっと差し込む。酸っぱいのに角がなく、香ばしく、余韻が軽い。

酢が旨い土地は、酒も旨い。平遥からほど近い杏花村(きょうかそん)は、名酒・汾酒(フェンジウ)の故郷である。清らかな香りの白酒(バイジウ)を杯に注ぎ、土地の料理をつまむ。これが実によかった。もっと早く来るべきだった。

古くから都市が栄え、商人たちが富を築いた山西である。文化の厚みが食に表れないはずがない。どの店も味つけは繊細で、食べるたびにうなった。今回紹介する香醋鶏蛋(シャンツージーダンも、そんな一皿だ。ふんわり焼いた卵に黒酢の香りをまとわせるだけで、家の食卓に山西の風が吹く。

香醋鶏蛋

酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.5──乾いた山西、黒酢の香り

xiāngcù jīdàn(ふんわり卵の黒酢炒め)
酸味まろやか香りふくらむごちそう卵

【材料】
卵…4個
ピーマン…1/2個
白葱…10cm
にんにく…1かけ
干し唐辛子…1本
水溶き片栗粉[片栗粉・水…各大さじ1]
塩…少々
油…大さじ3
A[黒酢…大さじ3、醤油…大さじ1/2、砂糖…ふたつまみ、胡麻油…小さじ1/2

【作り方】
卵を溶き、水溶き片栗粉と塩を混ぜる。白葱は斜め薄切り、ピーマンはひし形、にんにくは薄切り。中華鍋に油大さじ2を熱し、卵液を大きく焼く。焼き色がついたら返し、両面を焼いて取り出し、4cm角に切る。油大さじ1を足し、にんにく、干し唐辛子、白葱、ピーマンを炒める。卵を戻し、Aを炒め合わせる。

酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.5──乾いた山西、黒酢の香り
  • 酒徒 さん (しゅと)

    中華料理愛好家

    北京・広州・上海に暮らす。著書に本場中華料理のレシピ本『あたらしい家中華』『中華満腹大航海』がある。

『クロワッサン』1171号より

広告

  1. HOME
  2. くらし
  3. 酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.5──乾いた山西、黒酢の香り

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載