楽しい動物園(2)──俳優・木村多江さん×動物園デザイナー・北村直子さん
撮影・馬場わかな スタイリング・成子美穂(木村さん) ヘア&メイク・佐藤 優(木村さん) 文・長谷川未緒
動物園に行くと元気が湧くという俳優の木村多江さんと、日本では珍しい動物園専属デザイナーとして、井の頭自然文化園に約20年勤務する北村直子さん。井の頭自然文化園をお散歩しながら、動物の魅力を伝えるデザインの工夫や、都市型動物園ならではの役割について語り合い、動物園の楽しみ方を新たな視点から再発見していきます。
「人間も動物だと、謙虚になれるのが動物園です」
左:木村多江(きむら・たえ)さん 俳優。映画、ドラマ、舞台、ナレーションなど幅広く活躍。7月3〜19日、東京・紀伊國屋ホールにて、舞台『わたしの書、頁を図る』の主演も。
「子どもたちが動物を好きになるきっかけになれば」
右:北村直子(きたむら・なおこ)さん 動物園デザイナー。多摩美術大学卒業。井の頭自然文化園の展示デザインなどを手がけるかたわらで、広告、装丁、絵本制作なども行う。
木村多江さん(以下、木村) 今日は久しぶりにこちらに来ました。解説パネルが動物と私たちの架け橋になってくれて、より身近に感じられる気がします。どれも北村さんの手によるデザインなんですね。
北村直子さん(以下、北村) はい、園内のデザインに関わる部分は、すべて行っています。動物を紹介する解説パネルや園内の案内標識、ポスター、チラシ、オリジナルグッズの制作、特設展示のデザイン……、それだけでなく、ベンチのペンキを塗りかえるときなども、色の指定をさせてもらっています。
木村 それで園内の雰囲気に統一感を感じるんですね。
北村 ここは地域密着型の動物園で、ごはんを食べたり読書をしたりしに来られる方も。ですから親しみやすさ、わかりやすさはもちろんのこと、居心地のよさや、吉祥寺という街の雰囲気を損なわない上品さみたいなものも大切にしています。
木村 もともとデザイナーをされていたんですか。
北村 美大で陶芸を専攻し、卒業後も勉強を続けていたのですが、友人の誘いでこちらの園のツシマヤマネコの展示を手伝うことになったんです。そのときの係長に、海外の動物園や水族館にはデザイナーが常駐していて、日本の動物園にも必要とお声がけいただき、2007年から働くようになりました。
木村 最初の大きな仕事が入り口のステンドグラスだったと聞きました。
北村 そうなんです。以前の入り口には「年間パスポート販売中」と書かれた看板がついていて、なんとか良くしてくれ、と。どうしたらいいか、まったく思い浮かばなかったんですが、とりあえず看板を外してみたら、立派な木の枠が出てきました。これを生かしたいと思ったときに以前からステンドグラスに興味があったので、見積もりを取ってみたところすごく高くて……。諦めきれず、その年の年賀状やチラシにステンドグラスのデザインを多用していたら、予算を組んでもらえたんです。
木村 みんなの気持ちがステンドグラスに向くように工夫されたんですね!
北村 はい(笑)。ステンドグラスは色数も決まっていますし、動物たちをリアルには表現できないんです。いろいろ試した結果、動物たちを真横から見た姿をデザインに落としこむことに。このステンドグラスが今のさまざまなデザインの基本になっています。
木村 確かに、園のリーフレットや手拭いなどのグッズもステンドグラスのデザインがベースと聞くと納得です。とても素敵だから買いたくなりました。
子どもも大人も楽しめる解説パネルの工夫とは?
木村 私は解説パネルを読むことも好きなんです。何でも知っている気になっているけれど、知らないことも山のようにあって。ゾウは今まで一番多く見てきた動物ですけれど、さきほど北村さんが手掛けられた絵本を読んで、「1日に90kgもうんちをする」とあり、衝撃を受けました。
北村 そう、すごいですよね。
木村 大人になると、排泄物を片づける飼育員さんのご苦労などにも想像が及ぶじゃないですか。子どもの頃には気がつかなかった視点で、新しい発見ができたり知識をアップデートできたりするのも、すごく楽しいです。
北村 ありがとうございます。いろいろな世代のみなさんに、ちょっとした気づきや知識を持ち帰ってもらえるようなものを作りたいと思っています。
木村 子どももけっこう覚えているんですよね。オスとメスの違いとか、家に帰ってからも動物の話題が増える。子どもの財産になるし、親にとってもすごくいい思い出になります。ところで、看板にもイラストがありますし、絵本も作られていますが、北村さんが描く動物たちは、温かみとリアリティが同居していますよね。
北村 動物を描くって奥深いです。動物園として出すイラストなので、デフォルメはするけれど、きちんと正確さが必要で。けっこう難しいです。
木村 すごく観察をされるんですか。
北村 見に行きますけれど、パネルの監修を担当する解説員に話を聞くことのほうが多いですね。
木村 たとえば?
北村 カピバラは食べ物をよく噛むために、ほっぺにしっかり筋肉がついているから、ふくらませてほしいとか。
木村 へぇ〜。
北村 アナグマは、この尾の角度は緊張しているサインだから、少し下げてほしいと言われて描きなおしました。そういうやりとりはけっこうあり、最近作ったユーラシアカワウソの解説パネルも何度か作りなおしました。
木村 大きなパネルで印象的でした!
北村 そう言っていただけるとうれしいです。最初は、日中寝ていて夜活動するから、人間の子どもと逆の生活だよ、ということを表現しようと試みたんですけれどうまくいかず。そのあとも何度か作りなおしました。周囲となじみすぎて素通りされてしまうので色を変えたり、パネルの角でけがをしないように形を整えたりも。
木村 いろいろなことに配慮してくださっているんですね。確かに、動物がいないと少し残念にも思いますが、このように夜行性で昼間は寝ていることがわかると、今は姿が見えなくても当たり前なんだな、と納得できます。
北村 ここのカワウソは、閉園する頃に起きてきます(笑)。看板に間違いがあったら大変ですから、世界中のユーラシアカワウソが本当に昼間は寝ているのかどうかも、リサーチしました。
木村 なるほど。大変な作業ですね。
北村 でもやはり主役は動物ですから。せめて寝姿でも見てもらえるといいなと、巣箱の一方はアクリルになっています。その下に設置したパネルのイラストは等身大にして、泳ぐことが得意な体の特徴も伝えたいと思いました。
木村 すごい! 飼育員さんと解説員さんと相談しながら、一番伝えたいことを取捨選択しているんですね。パネルが目立ちすぎてもいけないとおっしゃいますが、読むほうは知識が深まり、豊かな体験ができます。みなさんの思いが込められていると知って、愛おしさが増し、読む楽しみが増えました。
何度も作り直したというユーラシアカワウソの解説パネル。「制作中、夜に来たら泳いでいる姿を見られて、やったー!とうれしくなり、制作へのモチベーションも上がりました(笑)」(北村さん)
木村さん「ユーラシアカワウソは夜行性なんですね」
北村さん「開園中はずっと寝てるんですよ」
都市型動物園だからこそ生き物との出合いの場に
木村 私はなんでもやりたがるタイプなので、動物園でえさやりや触れあい体験などがあれば、積極的に参加して楽しんでいます。動物たちの姿を間近に見たり感じたりすると、人間はすごく複雑にいろいろなことを考えて生きているけれど、動物は食べて寝て、過去を悔やむこともなく、今を楽しんで前に進んでいる。人間も動物なのだから、本来はこれでいいんだと確認させてもらい、すごく救われています。
北村 私たちは人間が動物であることを忘れて暮らしていますよね。とくに都会の子どもは動物と出合う機会が少ないから、タヌキやキツネも絵本の中でしか見たことがないし、虫も怖がります。ですから都市型動物園としては、できるだけ生き物と出合う窓口になりたいと考えているんです。
木村 とても必要なことですよね。さきほど通った「リスの小径」は、目と鼻の先で巣箱から顔を出すニホンリスたちの愛らしい姿を見られましたし、森の中を散歩しているようでリフレッシュできました。
北村 ちょうどリスたちの食事どきで、雨にもかかわらず出てきてくれましたね。「いきもの広場」も動物園としてはちょっと変わった試みです。動物を集めてきて展示するのではなく、生き物が自然にやってくる環境を整えました。
木村 それはおもしろいですね。
北村 もう10年くらい経つかな。ここにカブトムシがいるよ、とは言わず、草をかきわけたり石と石のすき間をのぞいたり、一緒に生き物を探すんです。最初は怖がっていた子どもたちも見つけられると楽しくなるし、好きになる。
木村 うんうん。
北村 毎週のように来ていると、動物園の外でも見つけられるようになるから、自信をつけて「いきもの広場」を卒業していくんですよ。
木村 ここで生き物と出合って、知れば好きになるし、守りたくなる。生き物に対して温かい気持ちを育めると、人に対しても、寛容になれる気がします。ちょっと不寛容になっているこの世の中で、それはすごく大切なこと。都市型動物園という身近な場所がそのきっかけになるなんてすごいことですし、また来る楽しみが増えました。
環境を整えることで自然と集まってきた昆虫やカエル、トカゲなどのちいさな生き物を観察できる「いきもの広場」。日時限定で開放されており、身近な生き物のすばらしさを認識できると人気
木村さん「虫もカエルも好きだから今度ゆっくり来たいです」
北村さん「生き物を探す楽しさが味わえる場所ですよ」
訪れたのは…
井の頭自然文化園
1942年、井の頭恩賜公園内に開園。市民に愛されたアジアゾウのはな子は、当時の日本最高齢の69歳まで生きた。飼育動物約160種の多くは日本の動物で、希少動物を守る取り組みも。
『クロワッサン』1166号より
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