楽しい動物園(1)──俳優・木村多江さん×動物園、水族館コンサルタント・田井基文さん
撮影・馬場わかな スタイリング・成子美穂(木村さん) ヘア&メイク・佐藤 優(木村さん) イラストレーション・コーダヨーコ 文・長谷川未緒
「動物たちからは幸せを分けてもらっています」
右:木村多江(きむら・たえ)さん
俳優。1996年ドラマデビュー。映画、ナレーションなど多方面で活躍。舞台初主演となる『わたしの書、頁を図る』(7月、東京・紀伊國屋ホール)で、個性的な利用客たちとの出会いから人生を変えていく、孤独な図書館職員役に挑む。
「動物園の存在意義や価値を高めていきたいです」
左:田井基文(たい・もとふみ)さん
動物園・水族館コンサルタント。早稲田大学法学部卒業。世界初の動物園・水族館専門誌『どうぶつのくに』を企画発行。ジャーナリスト、コンサルタントとして活動。著書に『世界をめぐる動物園・水族館コンサルタントの想定外な日々』(産業編集センター)。
動物園が大好きでよく訪れるという俳優の木村多江さんと、動物園・水族館コンサルタントの田井基文さん。動物への愛や、動物園が持つ可能性について、存分に語り合ってもらいました。二人が捉えた動物たちの愛らしい写真と共にお届けします。
木村多江さん(以下、木村) 子どものころ、よく祖父に上野動物園に連れて行ってもらいました。その記憶がずっと私の中にあって、動物園が好きなんです。子育て中は子どもを連れて、子どもの手が離れてからは、ひとりでも通っています。仕事で訪れた街に動物園や水族館があると時間を見つけて足を運ぶくらいなのですが、田井さんのご職業については初めて知りました。どんなことをされているのですか。
田井基文さん(以下、田井) 僕は縁あって『どうぶつのくに』という動物園・水族館専門のフリーマガジンを制作することになり、動物の撮影、動物園への取材を重ねてきました。現在は取材・撮影で得た知見やネットワークを活かし、各地の園をつないだり、コンセプトづくりをしたりしています。
木村 思い起こせば、動物園はそれぞれにカラーがありますものね。モダンだったり、親近感が湧いたり、温かかったり、いろいろなイメージが思い出されます。
田井 そうですね。新しく動物園をつくるときやリニューアルするとき、小さいものだと水槽ひとつから、この園ならではのやり方で、この動物をどう展示していくのか、建築家やデザイナーたちとチームを組み、つくりあげていきます。例えばドイツの「ベルリン動物園」では、2017年にお披露目されたパンダ舎の立ち上げに携わりました。
木村 海外のお仕事もされるのですね。ベルリン動物園だからこそ、という文化的な要素なども入れていくのですか。
田井 おっしゃるとおりです。2012年に34歳という当時最高齢で亡くなったバオバオというパンダがいた園で、このとき、つがいを貸与で迎えたのですが、表現したいことと実現できることのすり合わせにとても苦労しました。
木村 今度ぜひ訪ねてみたいです。私は海外の動物園に行くのも大好きで、またサファリなど野生の動物やその保護活動を行っている施設もいくつか訪ねたことがあります。田井さんが、サバンナで出合ったヒョウの美しさについてSNSに書かれていましたが、私も全く同じことを思いました! 本当に言い表せない美しさですよね。
田井 サファリまで行かれたのですね。
木村さんが訪れた場所
人の手が入ることで、つないでいける動物の命
木村 ところで田井さんは、たくさんの園や動物たちと関わってこられたんですよね。特に思い出に残っているエピソードはありますか?
田井 いろいろありすぎるんですけれど、「長崎バイオパーク」にいるモモというカバとは、長い付き合いです。カバはふつう水中で出産して水中で子育てします。ところがモモは陸上で生まれてしまった。そのせいか母親のノンノンが育児放棄してしまい、日本で初めて人工哺育で育ちました。当時の飼育担当で現園長の伊藤雅男さんが、大きな哺乳瓶でミルクをあげるところからスタート。少しずつ大きくなって群れに戻そうとするんですけれど、カバたちがいる池に連れていっても、モモは泳げないんです。
木村 たしかにアフリカで見たカバたちは、ずっと水中にいました。
田井 そうなんですよ。だから伊藤さんは、年中ウエットスーツを着て一緒に池に入り、泳ぐ練習をさせ、無事に群れに戻すことができた。今でも伊藤さんがカバ池を見下ろすデッキから身を乗り出して「モモ」と呼ぶと、すーっと顔を出してお尻をあげ、ビビビビビって尻尾を振るの。
木村 わぁ、素敵。伊藤さんのことが大好きなことが伝わってきます。親代わりですものね。
田井 モモは一時期「泳げないカバ」として有名になりましたけれど、ムーというカバと4頭も子どもをつくりました。ムー亡きあとは僕が仲人になって神戸市立王子動物園から連れてきた出目太というカバともカップルになり、子どもを産んでいます。モモの子どものうちの1頭は今、北海道の旭山動物園にいて、孫も何頭もいるんですよ。
木村 動物園って、始まりは珍しい動物を見たいというみんなの好奇心を満たすためにできたのかもしれません。けれどモモのように、人の手が入ることで助けられた命があり、さらにその子どもが他園に送り出されることで、命がつながっていく。時代に合った動物園の存在意義も考えさせられますね。
田井 そうなんです。かつてはレクリエーションの要素が強くありましたが、現在は動物福祉の観点から幸せに暮らせるようにすることはもちろん、「調査・研究」「種の保存」「教育・環境教育」といった分野でも、大きな役割を果たしています。わかりやすい例でいうと……、かつて絶滅の危機に瀕していた日本の鳥、なんだと思います?
木村 トキとかアホウドリでしょうか。
田井 あとコウノトリとライチョウの4種が有名です。このうち国の保全活動が遅れ気味だったのがライチョウで、山岳信仰の対象でもあったのに劇的に減ってしまった。20年近く前、上野動物園の当時の園長さんに「ライチョウをなんとかしたいんだよ」と言われて。そのころ僕はまだ大した知識も持ち合わせていませんでしたけれど、「北欧に行ったら食べますけどね」なんて話したら、「それだよ!」って。
木村 ほう。
田井 園長さんや飼育員とノルウェーのトロムソ大学を訪ね、スバールバルライチョウという日本のライチョウと近縁(だが別種)の卵を譲り受けたんです。上野動物園で孵化・成長させ、次世代の繁殖も成功した。その実績をもとに環境省などを動かして日本のライチョウの卵を捕獲する許可がおり、飼育繁殖事業を開始しました。
木村 動物園が絶滅危惧種を繁殖させて、野生に戻すということまで考えて活動したんですね。そういう活動をしているとは知らなかったです。
田井 飼育のプロである動物園だからこそできた方法です。
これからの動物園の社会的な役割とは
木村 田井さんはこれからの動物園って、どうなっていくとお考えですか。
田井 やっぱり各地域に根ざした生き物とその文化を伝える場であってほしいと思っています。最近強く思っているのは、もう少し家畜動物の存在に意識を向けたいということ。
木村 家畜、ですか?
田井 家畜は古来より人間と暮らし、人間のために働いてきました。家畜なくして、僕らの生活は成立しません。
木村 そうですよね。私たちは家畜によって生かされているともいえます。
田井 でも今の日本では、自分たちの日常生活から離れた存在として扱われています。文明と共に仕事が奪われた側面もあり、僕らのご先祖さまが昔から付き合ってきた在来家畜の中には、絶滅しているものもあるんです。
木村 私たちは地球史上6回目の大量絶滅期を迎えているという話は聞きますけれど、家畜まで……。
田井 木村さんは時代劇にも出演されるからご存じかもしれないけれど、戦国時代の合戦では、木曽馬という長野県木曽地域で飼育された在来馬が使われていたわけです。サラブレッドと比べたら、ずいぶん小さい。
木村 当時の日本人も小柄だったから、ちょうどよかったんでしょうね。
田井 そのとおりです。現在は保全活動で少し増えましたが、戦国時代の日本人はこういう馬に乗っていたんだよ、ということを市民に伝える役割を果たせるのは、やっぱり動物園じゃないかな、と思うんです。
木村 自分たちが暮らす地域にはこういう動物がいて、在来家畜もいて、ともに生きているんだよ、と見せることができたら、日本全国の動物園の個性がもっともっと際立ちますね。
田井 好例を挙げると、「沖縄こどもの国」という動物園では、与那国馬などの在来馬を保護し、園内のえさ運びをしてもらうなど、元来の役割を与えて活用する取り組みをしています。沖縄には琉球競馬という競馬があったんですけれど、戦争で途絶えてしまったんです。与那国馬を使ってなんとか復活できないかとプロジェクトを進め、2013年に離島を含め県内から与那国馬が集まり、70年ぶりに開催、以後毎年開催されています。おもしろいのはこの競馬、スピードではなく、美しさで勝敗が決まるんです。
木村 人が乗って?
田井 そう、人馬一体となり、側対歩(そくたいほ)という独特の歩き方や馬の装飾、乗り手の衣装も含め、コンテスト形式で優雅さを競い合う。沖縄には織物とか刺繡の技術があるじゃないですか。
木村 紅型とか琉球絣など、各地にありますね。作り手からしたら作品を発表する場にもなりますし、沖縄の文化も一緒に残せるわけですね。
田井 ここには在来豚の島ウヮーや在来山羊のヒージャーなどの展示エリアもあって、家畜をとおして琉球の歴史や自然、文化を伝えています。
木村 動物園は子ども心を取り戻す場であり、動物たちの安心しきった姿からは幸せを分けてもらっています。今回、動物園が行っているさまざまな取り組みを知り、今まで以上に動物との共存を意識できるようになり、地球環境を守る必要性なども考えさせられました。絶滅の危機に瀕している動物たちが数多くいる今、私たちがこれからどう行動していくべきか、そのヒントをくれる場所になっていく気がします。次に動物園を訪ねるときは、そういう視点でも楽しみたいと思います。
田井さんおすすめの動物園
『クロワッサン』1165号より
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