介護する人もされる人も心から楽しめる、特別な旅──藤吉正一さん 新しい介護×旅(2)
撮影・井手勇貴 構成&文・殿井悠子
今年の1月から、大型キャンピングカーを使った介護旅行サービスを始めた藤吉正一さん。きっかけは葬儀の仕事で耳にした「最後にあそこへ連れて行きたかった」という遺族の言葉だった。葬儀の仕事を始めて15年。今や利用者のほとんどが紹介やリピーターになった。長年育んできた人とのつながりをさらに深める方法を模索するなかで、行けるうちに行きたい場所へ安心して出かけられる手段をつくることが、グリーフケアになるのではと考えた。
キャンピングカーの事業化には前例がなく、4年の歳月がかかった。コロナ禍でキャンピングカー人気が高まった頃と重なったが、販売店の担当者は「世のため人のためになる使い方をされるのは初めてでうれしい」と、特別に車を取り置いてくれた。
準備段階では、車椅子活動の支援団体の代表であり看護師の櫛田美知子さんが試乗に協力。櫛田さん自身も車椅子生活を送っている。藤吉さんがSNSなどで介護の助言を求めているときに声をかけてくれたのが出会いだった。櫛田さんは入り口の手すりやリフト設置をすすめてくれ、初の利用者にもなった。
ある日、視覚障害のある雪山宙希さんが藤吉さんのもとを訪ねてきた。「末期がんの母を大好きなディズニーランドに連れて行きたい」。夢は叶わぬまま母は旅立ったが、「出かけることは、薬では得られない効果があると思った。自分では病気の母を連れて出かけることができなかったので良いサービスだと感じた」と語る。雪山さんは視覚障害のある友人とともに、障害があっても自立して自由に暮らせるグループホームをつくろうとしており、実現にはいくつもの社会の障壁があった。藤吉さんは「1ミリでも彼らのバリアを下げたい」と、こんなふうに、誰かの人生の節目に寄り添えるようなことを模索してきた。
雪山さんは「民間救急は不足し、気兼ねなく外出できない。移動手段がなく断念することが多いなか、藤吉さんのようなサービスができたのは心強い」と話す。車内にはふかふかのベッドや車椅子でも入れるトイレが備わり、ミニキッチンもあるので普通食が難しい人でもちょっとした調理対応ができる。「介護者の休息(レスパイト)を意識しました。本人だけ、家族だけでは心から休めない。だから、みんなで一緒に楽しめる仕様にしています」(藤吉さん)。介護する人もされる人も共に旅を楽しむ──それがキャンピングカーでの介護旅の醍醐味だ。(続く)
『クロワッサン』1152号より
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