『チョコレート・ピース』著者 青山美智子さんインタビュー「すべての女性に贈る祝福の1粒です」
撮影・幸喜ひかり 文・一寸木芳枝
甘いのか苦いのか、固いのか脆いのか。カジュアルなのかスペシャルなのか、薬なのか毒なのか。本作の著者、青山美智子さんの創造意欲を刺激したのは、ごく身近な存在ながら、実に多面的な魅力にあふれるチョコレート。
「チョコレートの原材料はカカオですが、素材の時点では何になるのか、行く末は決まっていないわけですよね。高級1粒ショコラになるかもしれないし、キットカットになるかもしれない。そんな行く末の不確かさが人間ぽくもあり、人生のようだなと思ったら、アイディアが湧いてきたんです」
チョコレートのあるワンシーンを切り取ったショートショートである本作。1年間、『anan』での連載分をまとめたBOX1と新たに書き下ろしたBOX2。2つの章それぞれにダースと同じ12編が収められている。
チョコバナナ、キットカット、チョコフラペチーノ、ガトーショコラ……など、登場する多彩なチョコレートのバリエーションと、それらをモチーフに展開する物語は恋愛小説であり、シスターフッド小説であり、成長譚でもある。
「今という瞬間はすぐ過去になり、通り過ぎていってしまう。でも、そんな一瞬、一瞬しか生きられない私たちのきらめきみたいなものを、ピン留めして残したい、そう思いました。ただそれは、恋愛も嫉妬も男女の友情もひととおり経験し、当時の感情からは少し遠くにいる今だからこそ、出来たのだと思います。これは50代でなければ、書けなかった作品でしょう」
全編を通じて共通するのは、日常のどこにでもある風景と、自分もしくは周りの誰かが通ってきたであろう道をやさしく見守る視線だ。それは時に、チョコレートではなく柿ピーに向けられることも。
なんてことのない日常から、すくい上げる一瞬のきらめき
青山さんが「一番苦労した」と話すBOX2のShot4は、唯一チョコレートが主役ではない異色の1編。
「ちょっと変わった子というキャラクターを表現するために、バレンタインデーの友チョコに柿ピーを選ぶ設定を思いつきました。このお菓子の素晴らしさは何だろうと、考えて考えて。チョコではないが故に、掘り下げてみたら面白いと思って(笑)」
その試みは見事に成功。思春期の友だちグループにおける“空気を読むこと”と、個性を出すことの対比。そして、その結果生まれる甘酸っぱい友情が胸に迫る珠玉の1編となっている。
「今を生きるすべての年代の女性に、“生きているだけで偉いんだよ”というエール、祝福、そんな想いがこの1冊には詰まっています。ぜひ、自分の人生を重ね合わせながら、読んでみてもらえたら」
最後まで読み進めることで、物語がより立体的に浮かび上がるサプライズもお楽しみに。お気に入りのチョコレートを頬張りながら、自分をやさしく労る。そんな時間に寄り添ってくれる1冊だ。
『クロワッサン』1144号より
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