「どんな体形の方でも素敵に。着物は”七難隠す”と思っています」茶道 表千家教授・津田和美さんの着物の時間
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 文・大澤はつ江
義母から譲られた扇面と流水の訪問着、品と華やかさがあり大好きな一枚
「この着物と帯は、昨年お茶の指導者として25周年を迎えたのを記念した茶会を催した際に、義母から譲られたものです。茶会などで義母が着ている姿が素敵で、いつか私も着てみたい、と憧れていた訪問着なんです。5代目田畑喜八さんの作で、乳白色の地色に流水と扇面の模様。色数は少ないのですが、上品で華やかな雰囲気を醸し出してくれます」
扇面に藍色の濃淡で松や竹、紅葉、菊などを描き、ところどころにさした朱赤で全体を引き締める。そこに金色と藍色で描いた流水が絡み、動きを添える。
「エネルギーをもらえる着物ですね。着ると背筋が伸びて気合が入ります。合わせた帯は金通しに雅楽『蘭陵王(らんりょうおう)』の一説を織り出したもの。蘭陵王は美貌の持ち主で、自身と兵士を鼓舞するために仮面を着けて戦ったという伝説の中国の武将です。お太鼓にいらっしゃるので、イケメンに守られているようでちょっとうれしい(笑)」
と、東京・谷中の築120年以上を経た日本家屋に暮らす表千家教授の津田和美さん。撮影は茶室『寿庵』前で行った。
「昭和初期に博覧会が開催され、そこに千利休が残したとされる『待庵』の再現茶室が出品されました。終了後、そのときに東京美術学校(現・東京藝術大学)の教授だった義理の祖父、津田信夫(鋳金工芸作家)が茶室を譲り受け、工房の一角の庭を整備し、移築。『寿庵』と命名しました」
佐倉藩の旧家の家系で、お茶は日々の嗜みとして生活のなかにあったという津田家。
「私がお茶を習い始めたのは21歳のとき。なんとなくお茶を習ってみたくなって……」
その後、縁があり夫と結婚。31歳の頃、友人に請われてお茶を教え始める。
「初めはとまどいましたが、お茶の指導者の義母が背中を押してくれて。稽古は洋服でもかまいませんが、所作などを身につけるにはやはり着物のほうがいいですね。例えば、遠くにある器を取る場合、洋服だとなにも考えずに手を出してしまいますが、着物の場合は袖が手前のものに触れないように手を伸ばす。これが自然に行えるようになるには、着物を着てこそだと思います。お茶は決まり事が多い、といわれますが、所作は茶を点てるために一番合理的でかつ美しい動き。茶道はそこにもてなす心が加わり、共によりよい時間を過ごしましょうということなんです」
稽古のときは小紋などが多く、着物はいわば仕事着のような感覚、という津田さんだが、習い始めのころは失敗もあった。
「着物を着付け、帯も結んで外出したのですが、なにかおかしい。足さばきがスムーズに行えないんです。鏡を見ると、なんと長襦袢が右前で反対。あわてて着物の衿を引っ張って長襦袢の衿を隠し、何食わぬ顔で帰りました。あとは帯が難関でした。実家の母や義母に教えてもらったのですが、ふたりの手順が異なり、どうしたらいいか迷ってしまい……」
そこで着付けができる友人に相談すると、
「ここを仮紐で押さえれば簡単よ、と実践してくれて。手順がすっと頭に入り、帯結びがスムーズに。何事もほんのちょっとしたコツさえわかると、簡単なんだと実感しました」
ルールが大変と敬遠されがちな着物だが、
「格式のある席を別にすれば、私はその人の感性で楽しんでほしい。着物は体形を選びません。ふくよかな方、背の高い方、低い方、誰にでも似合い素敵になります。着物は〝七難隠す〟が私のモットー。まずは着てみてください。知らない自分に出会えますよ」
『クロワッサン』1138号より
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