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『二十四五』著者・乗代雄介さんインタビュー「小説を書き、読むことで、書くことについて考え続けたい」

撮影・石渡 朋 文・鳥澤 光

乗代雄介(のりしろ・ゆうすけ)さん 1986年、北海道生まれ。2015年、「十七八より」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。野間文芸新人賞、三島由紀夫賞、坪田譲治文学賞、織田作之助賞、芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。代表作に『旅する練習』『それは誠』など。
乗代雄介(のりしろ・ゆうすけ)さん 1986年、北海道生まれ。2015年、「十七八より」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。野間文芸新人賞、三島由紀夫賞、坪田譲治文学賞、織田作之助賞、芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。代表作に『旅する練習』『それは誠』など。

デビュー作『十七八より』と同じく、世阿弥『風姿花伝』に由来するタイトルを冠した最新作。

20代半ばにして作家となった主人公の阿佐美景子が、弟の結婚式に参列するため仙台へ向かう新幹線の中で物語がスタートする。

「年を重ねて変化しながら“書く人間”であり続けるという意味で、自分に近い存在を主人公にした作品です。24〜25歳という年齢は、書き続けるうえで何を拠りどころとするのかを考え続け、何が救いになり得るのかもわからない宙吊りの状態。そこになぞらえるように、何も起こらないという状態を小説にするのがひとつのテーマでした。かつてそこを通り過ぎた現在の視点から、当時の感性や知識、見えていなさも含めた自分の実感を基に書いています」

小説を書き、読むことで 書くことについて考え続けたい

「十七八より」「未熟な同感者」「最高の任務」「フィリフヨンカのべっぴんさん」に連なるシリーズの1作でもある今作。「今後も書き続けていきたい」という、乗代さんにとってライフワークともいえる作品群で同じ人物たちを書く理由は?

「自分が25で書いたものと35や50で書くものを比べたら、登場人物やテーマが同じでもそこには変化があるはずです。これまでの5作と今後書いていく作品をひとつの流れとして書き、読むことで、人生において“書くこと”とは何であるかが明確になるんじゃないかな、という希望を持っています」

マンガをきっかけに知り合う大学生、久しぶりに会う父と母と弟、弟の妻となる人とその家族、友人たちとのやりとりは、リズムや語彙の微細な、ときに大きな変化が楽しい。会話によって醸成される空気の揺らぎが光や音を伴って読み手に伝わってくる。一人で歩く夜があり、朝があり、震災の記憶に触れるいくつもの瞬間が、遺跡で歌を聴く数分間がある。

「仙台へは季節ごとに赴いてあちこち歩き回りました。新幹線で見知らぬ人同士が言葉を交わす場面や、地底の森ミュージアムでの出来事など、実際に目にした光景やそこで起こったこともかなりストレートに取り込んでいます」

小説にはまた、主人公が知るなかで誰よりも本を読み、《書くことがあたかも生きるに値するかのような刷り込み》を周到に成し遂げた亡き叔母が、思われ、語られ、思い出されることで鮮やかに存在している。そうして《死者が生者に伝えうるのは「生きよ」という願いだけなのだろうか。それともそれは、生者が心を痛めず取り出せる唯一のメッセージに過ぎないのだろうか》と思いを巡らせる姪を、文学の深い森に招き入れる。

「自分も“書く人間”の一人として、執筆を通して日本の文学史を辿りたいという願望があります。自分で見たものを書く、という点は実践して作品としても残せたので、次は自然主義への反動として出てきた新感覚派を追って新しい書き方を試していきたいです」

弟の結婚式への道中で新しい友人を得た主人公。亡き叔母を思いながら歩き、会話し、書くことについて考える。 講談社 1,650円
弟の結婚式への道中で新しい友人を得た主人公。亡き叔母を思いながら歩き、会話し、書くことについて考える。 講談社 1,650円

『クロワッサン』1137号より

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