祖母、母、娘——女たちの歴史と未来を韓国の小説から考える
撮影・幸喜ひかり イラストレーション・松栄舞子 文・嶌 陽子
女性と老い:祖母と母、娘、暮らしの中で浮き上がる、世代間の溝
古川 社会の大きな流れを汲んだ作品を取り上げてきましたが、もっと身近な現実の生活や、それに伴う困難を描いた作品も見ていきましょうか。
倉本 こうした作品の中では、世代間ギャップが描かれることが多いですよね。韓国では親の世代と子の世代の価値観がかけ離れてしまっている。
古川 社会の変化が激しかったので、親と子では経験したものが日本の比にならないほど違うんですよね。
倉本 『娘について』(6) もそんな物語です。女手ひとつで娘を育てて、今は一人暮らしをしている60代の母親のもとに、娘が同性のパートナーを連れて転がり込んでくる。娘のことを嫌いなわけではないものの、同性カップルということからして母親には理解できない。
古川 「どうして普通に結婚して子どもを産めないのか」という考えから逃れられない。母と娘が結局最後まで完全にはわかり合えないところがリアルでいいなと思いました。母娘の姿を通じて老いることや老後の孤独、貧困など、女性として生まれたが故に負わされる社会的な困難を年代ごとに描いている作品だと思います。
倉本 『娘について』が現代を舞台にした話だとすれば、『年年歳歳』(7) は、1950年代から現代までの母と娘たちの歴史を描いた作品ですね。
古川 韓国の現代史と個人史がリンクしながら物語が進んでいきます。これは韓国文学によく見られる特徴かも。
倉本 前半は壮絶。朝鮮戦争で親を亡くし、自身も避難民になるなど、母親の激動の人生が描かれるんです。
古川 2人の娘は全くタイプが違っていて、それぞれに葛藤も抱えているんですが、母親とは違う価値観を持っている。こうした世代間ギャップが、激動の朝鮮半島の歴史そのものなのかも。
倉本 『私のおばあちゃんへ』(8) は、おばあちゃんをテーマにしたアンソロジーですね。
古川 この本も、韓国文学を初めて読む人におすすめしたい一冊。小説の中のおばあちゃんって、脇役、もしくはマイナスなイメージで描かれることが多いと思うんですが、この本に出てくるおばあちゃんたちはもっと多様です。
倉本 「老いて困難に直面する」という図式ではないですよね。女性がおばあちゃんになるまでの途中の地点のようなものを描いているような印象も。
古川 中にはミステリー作品もあるし、すごく楽しめる本だと思います。
老人介護施設で働く60代の一人暮らしの「私」の元へ、ほとんど連絡を取っていなかった娘が同性パートナーを連れて転がり込んでくる。母娘の関係や老いと孤独というテーマを見つめた長編小説。
壮絶な人生を歩んできた母親と、現代を手探りで生きる2人の娘たちの姿を中心に描いた連作小説。それぞれの生活を通して、激動の韓国の現代史や、その中で女性として生きることが見えてくる。
注目の女性作家6名が描く、「おばあちゃん」をテーマにしたアンソロジー。ロマンスや家族ドラマ、SF、ミステリーなど、老いへの固定観念から自由な6人6様のおばあちゃんの物語が描かれる。
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