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保坂和志さんが今読みたい本 テーマ「本の読み方」

本は私たちに何を与えてくれる?第一線で活躍する保坂和志さんが「本の読み方」をテーマに選書した必読の3冊をここに。

撮影・黒川ひろみ 文・保坂和志 構成・堀越和幸

保坂和志さん(作家)|テーマ「本の読み方」

保坂和志(ほさか・かずし)さん 1990年、『プレーンソング』でデビュー。95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、2013年『未明の闘争』で野間文芸賞を受賞。近著には『猫がこなくなった』が。<a href="http://hosakakazushi.com/">http://hosakakazushi.com/</a>
保坂和志(ほさか・かずし)さん 1990年、『プレーンソング』でデビュー。95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、2013年『未明の闘争』で野間文芸賞を受賞。近著には『猫がこなくなった』が。http://hosakakazushi.com/

少し変わった読書本を紹介しようと思う。

読書の習慣は、社会人になった時とか、人生で何度か危機があるが、その時に変わった読み方をする人の話を聞いてみたらどうか?

ただの読書家はつまらない。そういう人は型通りにしか本を読まない。そうでなく、一冊を最初から最後まで通読するのでなく、読み散らかす。本は通読しないと話題にしてはいけないとか、まして本を採点するとか、こういう考え方は学校で仕込まれた、読書感想文と作品要約の癖から抜けてない。

本を読むということは、社会に生きる個人が、自分ひとりの小さな空間を作って、それを維持することだ。読書に対する堅苦しい思い込みは捨て去って、好きなスタイルで読む。そうすれば、読書はきっと本当の意味で、人生の伴侶になると思う。

まず、『「百年の孤独」を代わりに読む』。著者の友田とんさんはG・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が好きすぎて、一人でも多くの人に読んでもらいたいという思いから、「代わりに読む」という変な方法を考えついた。もちろんこれは朗読の本ではないーーそもそも本は朗読しない。

少し確認しておくと、本を読む人なら名前を知らない人はいないだろう『百年の孤独』が、ついに文庫本になったのが去年の六月で、出版界ではけっこうな事件で、文庫はベストセラーになったが、この本はそのずっと前、2018年に著者の友田さん自身が自主制作したものだった。

だからごく一部の人以外には知られずに消えていく運命にあったんだろうが、文庫化されることは永久にないと言われていた『百年の孤独』のまさかの文庫化の決定が話題となったおかげで、この『〜を代わりに読む』も早川書房から文庫として出版されることになった。一見ただのラッキーだが、その後、増刷を重ねているから、まんざら運だけでもない。

誰かが誰かの代わりに本を読むなんてできるわけがないが、「代わりに読む」という発想がともかく面白い。そして、読んでいくと、案外できてるような気がしてくる。友田さんは、『百年の孤独』を一章ずつ読みながら、四方八方に連想を広げる。落語の『粗忽長屋』、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スタンド・バイ・ミー』、植木等の無責任シリーズ、テレビの『新婚さんいらっしゃい』などなど……などなど……

友田さんの連想の自由さは小説を読む気楽さ楽しさを教えてくれる。『百年の孤独』にトライしたが挫折した、という人は、話の全体を理解しようとするから失敗したと思う。全体など気にせず、小さなところに反応すればいい。読書感想文や作品要約(ついでに採点も)さようなら!だ。

そんな窮屈な気持ちではいないつもりでも、読みながら「作者はこういうことを言いたいのか?」と、つい答え合わせ的な思考を巡らせてしまうものだが、もう子供じゃない。大人なんだから、本を読みながら作者の意図などと離れていろんな連想をしてしまうのは当然というものだ。大人は子供より知識も経験も多いんだから、その分、連想は遠くまで広がってゆく。脈絡ない連想も多いだろうが、それを自己規制してたらつまらない。連想の赴くまま、あれやこれや思い出したりしながら読めばいい。

私は前から思っているんだが、

(1)いい本は、読者の記憶をフル稼働させてくれて、思いがけないことまで思い出させる。
(2)いい本は、読むたびに発見する面白さがあって、作品世界が彩り豊かになる。
『〜を代わりに読む』は、この2条件を証明している。ーーそして、実はもう一つ、
(3)この人、なんでこんなこと書くんだ?この人、バカなの?

と、つい思ってしまうところが、いい本にはある。「大作家」「名作」というラベルに萎縮せず、肩の力を抜いて読むとその感じが不意に訪れる。私が(3)を発見したのも『百年の孤独』だった。三十歳で再読しているときだった、

「この人、バカなのかもーー」

という感覚に不意に襲われ、それを境に面白さは倍化した。

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