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山田詠美さんが今読みたい本 テーマ:人生

本は私たちに何を与えてくれる?第一線で活躍する山田詠美さんが「人生」をテーマに選んだ今の時代に読みたい本。必読の3冊をここに。

撮影・黒川ひろみ 文・池田 彰 構成・堀越和幸

山田詠美さん(作家)|選書テーマ「人生」

山田詠美(やまだ・えいみ)さん 作家。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。心がざわつく題名と出合うために、東京・西荻窪駅の『今野書店』と荻窪駅の『文禄堂 荻窪店』と本屋で過ごす時間を大切にしている。
山田詠美(やまだ・えいみ)さん 作家。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。心がざわつく題名と出合うために、東京・西荻窪駅の『今野書店』と荻窪駅の『文禄堂 荻窪店』と本屋で過ごす時間を大切にしている。

書店を巡って月に20冊は本を購入し、最近はノンフィクションを選ぶことが多いという山田詠美さん。今回紹介してくれるのは「人生」をキーワードとする3冊だ。

「人生には過去、現在、未来があると思うかもしれないけれど、本当は過去と、いま立ち止まっている現在しかなくて、未来は自分の想像の中にしかない。いまその人の立ち位置がある場所と、そこまで来させた時間の流れと、それまでに出会った人々や出来事が重なって完結しているのが人生だと改めて思わせてくれるのがこれらの本です」

1冊目は、昨年4月に90歳で亡くなった黒人女性作家マリーズ・コンデの自伝的回顧録『料理と人生』。料理といえば、山田さんのデビュー作『ベッドタイムアイズ』の最初の一文を記憶しているファンも多いはず。それは「スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい」。

昨年刊行されたエッセイ集『もの想う時、ものを書く』にも、料理にまつわる記述がいろいろと収められている。作品で、日々の生活で、料理は極めて山田さんの身近にある。

「私は料理と文学はどこか似ていると思う。どちらも新しい創造性と再現性が大切ですよね。それにすごく単純な話、お湯を沸かさなければ料理は作れないし、最初の1文字を書き出さないと物語も始まらない。そんなシンプルな営みも料理と文学の共通項であるような気がしています」

作者のコンデは、カリブ海の島に生まれ、料理なんて召し使いのすることという母親への反発から料理に目覚め、やがて世界を旅し、新しい文化と人々に触れ、作品のインスピレーションを湧かせてきた人だ。

旅先でのさまざまな食事の体験を通して、自身で料理することにもますます魅入られていく日日が描かれているが、それは彼女の著作にも大きな影響を与えたに違いない。

「コンデは料理好きになったわけを聞かれて『わかりません。それはなぜ書くことが好きになったのかと聞かれるようなものです』と答えています」

台所が遊び場だった料理好きが、世界各国を巡り、新しい味や文化と遭遇する。これはひとりの人間の人生紀行としても楽しめる一冊だろう。

「彼女は、出会った料理、人、文化を手放しで褒めるのではなく、自分が納得できないと、それをハッキリと伝え、また自分の中に潜むLGBTQへの戸惑いも告白します。貧困を知るならば自身で貧民街を訪ねる必要があると実感した際の『貧困は裸眼では見えないのだ』という一文に触れたりすると、ついつい付箋をつけたくなります」

「ただ即興で作り、味見を繰り返すことでしか料理を完成できない私にレシピを書くのは簡単なことではない」と綴られる言葉は、まるで常識という束縛から逃れ、自分のルールや矜持で生きる喜びを物語にする山田さんの筆が生み出した言葉のようで、山田さんが本作に魅かれる理由がよくわかる。

「料理を食べるということは、そこに用意された料理以外の全てをも体験し味わうことだと思っています。好きな人と向かいあって食べれば、同じ簡素な食事だって幸せでしょう?おいしい料理は、塩や胡椒、食材だけではない、何か素晴らしい“隠し味”があると彼女は語っているような気がします」

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