名作はなぜこんなに面白いのか——時を超え読み継がれる理由「世界文学」編
撮影・黒川ひろみ イラストレーション・いとう瞳 文・辻さゆり
貧富の差からの逆襲、『嵐が丘』
大岡 最後はエミリー・ブロンテの『嵐が丘』。登場人物はみんな性格が強くてトゲトゲしていて一時も安心できない。現代で言うとこれも韓流ドラマに似ています。
三宅 私もこれは少女漫画だと思っていて、実際に美内すずえさんの『ガラスの仮面』にも登場するんですよ。
大岡 姉妹でもお姉さんのシャーロット・ブロンテが書いた『ジェーン・エア』とはずいぶん違いますよね。
三宅 『ジェーン・エア』は読んでいると、苦しくなってくる場面があるんですよね。
大岡 どういうところですか?
三宅 主人公の自己肯定感の低さに、そんなに卑下しなくてもと思ってしまう。心配な友だちを見ている気持ちになります(笑)。
大岡 いいですね、その表現! 『嵐が丘』はそんな気持ちにならない?
三宅 『嵐が丘』のキャサリンは情緒は不安定ですけど「いつも元気そうでよろしい!」みたいな(笑)。だからキャサリンに関しては心配しません。生命力があるところが『嵐が丘』の好きなところです。
大岡 今回読み直してみてスコット・フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』にも似ていると思いました。見下げられた女に男が金持ちになって復讐する感じ、でも変わらず未練たっぷりというところが……。
三宅 確かに。若い頃からの片思いが年齢を重ねて……というところは、村上春樹さんの『街とその不確かな壁』でも描かれています。世代を超え、万人に受け入れられやすいパターンなのかもしれません。
大岡 古典というと敷居が高く感じられますが、実は名作って、誰もがそうだよねとわかる大衆性や典型があって、落とし所がちゃんとある。そういう作品が時を経て残っていく気がします。
三宅 「こんな人いる、いる」っていう感じでキャラクターに普遍性がありますよね。意外と時代が違っても、人間に対する感覚って変わらない。自分が悩んでいる人間関係もちょっと引いて見られるようになって、よくあることなんだと思えてくるのも、名作と言われる所以かもしれませんね。
『風と共に去りぬ』全6冊(マーガレット・ミッチェル著、荒このみ訳、924〜1,232円、岩波文庫)
アメリカ南部の大農園主の娘であり、激しい気性を持つスカーレット・オハラが、南北戦争という激動の時代を生き抜いていく姿を描いたベストセラー小説。1939年に映画化された。
『高慢と偏見』上下巻(ジェイン・オースティン著、中野康司訳、各1,100円、ちくま文庫)
エリザベスは大地主で美男子のダーシーと知り合うが、高慢な態度に反感を抱き……。ミセス・ベネットなどの喜劇的人物も登場して大いに笑わせ、深い感動を味わえる英国の名作。
『嵐が丘』上下巻(エミリー・ブロンテ著、小野寺健訳、上748円、下858円、光文社古典新訳文庫)
イギリス・ヨークシャの屋敷「嵐が丘」。主人が連れ帰った身よりのない少年ヒースクリフは娘のキャサリンに恋をするが成就しない。失意の中、姿を消した彼は数年後に莫大な財産を手に戻り……。
『クロワッサン』1136号より
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