『ミアキス・シンフォニー』著者・加藤シゲアキさんインタビュー「待っていてくれた人がいたから本にできた」
撮影・阿部ケンヤ スタイリング・吉田幸弘 文・一寸木芳枝
アイドルグループ「NEWS」のメンバーとしてだけでなく、ここ数年は作家として脚光を浴びる加藤シゲアキさん。2020年刊行の『オルタネート』、2023年発表の『なれのはて』と立て続けに直木三十五賞候補に選出されたこともあり、次作への期待は高まるばかり。そんな中、待望の新刊がこのたび上梓された。
「筆を取って13年。作家としての足場が固まった感じはありました。でもその分、青春小説、社会派ミステリーときて、次に何を送り出すか。ちょっと悩んでいた部分もあったんです」
考えた結果、加藤さんが選んだのは、愛をテーマにした群像劇。2018年に雑誌『anan』で不定期連載としてスタートした短編を、7年かけ1つの物語として完成させた。
「当初は実験場というか、どこか遊び場のような感覚で行き当たりばったりで始めたんです(笑)。でも1冊の本にするとなれば、ちゃんと文芸作品として成立するようトリートメントが必要で。結果的に作家人生で最も時間のかかった作品となりましたが、このタイミングで出せたことはよかったと思っています。やっぱり飽きられないようにしたいので、加藤シゲアキという作家が何を考えているかわからない感じは出せたかな、と」
愛の解釈に正解はない、けれど、考えずにはいられない
物語は大学や和食屋を舞台に、一つの場面を複数の人物の異なる視点で綴られる形式で進む。
ぬいぐるみに本音を吐露する少女、気軽に付き合う相手を替える青年、生真面目な大学教員、何かありそうな料理人。
登場人物は実に多彩だが、誰もが未熟さを抱え、それぞれに面倒くさい点が妙にリアルで生々しい。また、置かれたシチュエーションの描写も巧みで、各シーンが映像のように立体的に立ち上る。その筆力は、さすがだ。
「好きなキャラクターは、いないかも。みんな人間臭くて泥臭くて、全員嫌いかもしれない(笑)。ただ、メインキャラクターのまりなは書いている分には楽しかったです。自分が信じたものにしか向き合っていないという点で、清々しいから」
だがそのまりなの純度高く“愛とは何か”を問い続ける視線は、読み手の私たち自身にも突き刺さる。
「でも常々言っているんですが、小説って答えじゃなくて“問い”だと思うんです。だから、本の中に答えはありません。読んでもらって、自身で考えてもらえたら」
ちなみに、タイトルにもなっている「ミアキス」とは犬と猫の祖先といわれている動物のこと。登場人物の分岐点にその存在を重ねつつ、自身の作家人生にとっても新たな分岐点となるよう願いが込められている。
「今は、長編の構想中。久しぶりに純粋な一読者となって、いろんな人の本を読みたいですね。そしてまた、この本の評価が自分の方向性や次に進むべき道を照らしてくれると思っています」
ジャケット4万8400円、パンツ3万1900円(共にナンバーナイン TEL.03・6416・3503) シャツ3万7400円(クルニ/クルニ フラッグシップ ストア TEL.03・6416・1056)
『クロワッサン』1136号より
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