一生かけて楽しみつくす趣味の話:平井かずみさんの「中国茶」
撮影・徳永 彩 文・長谷川未緒
花と通じるお茶がつなぐ友人たちとの時間
平井かずみさん(53歳、フラワースタイリスト)
フラワースタイリストの平井かずみさんは、アトリエで中国茶のイベントをしてほしいと友人からリクエストされたことをきっかけに、中国茶を学び始めた。
「まだ始めて2年ほどだから何もわかっていない」と謙遜するが、ずらりと並んだ茶器からも、熱中していることが伝わってくる。茶道に比べて所作に決まりがなく、自由に楽しめるところが性格に合っているそう。
「道具ひとつとっても、専用のものを使わなくてもいいんです。たとえば茶海といってお茶の濃度を均一にするために使う道具は、片口で代用できます。茶針も庭の木から切ってきた枝でいい。何でも茶器になるから、敷居が下がるんですよね。私も草花を日常で楽しんでいただけるよう、グラスを花器代わりにするといった提案をしているので、相通じるところがありました」
拾ってきた石や趣味で集めている鉱石、オブジェなどをどう茶道具に見立てるかを考えるのは楽しい時間。中国茶の種類は数百種類といわれ、産地などお茶まわりの知識を学ぶのも、良い刺激になっている。
「中国茶は味わいもさることながら、甘かったり青々しかったり、種類によって異なる香りも魅力です。お茶を淹れる際にふわりと立ち上る香りを嗅ぐことで、深く呼吸ができるんです。疲れているときにお茶を淹れると、温泉に浸かったようにリフレッシュでき、心身ともに癒やされますね」
ひとりで楽しむだけでなく、人にふるまうのも好き、と平井さん。来客時に中国茶を淹れるようになったことで、時間の流れ方が以前よりゆるやかになったように感じている。
「ほどよくお酒を飲んで最後にお茶を淹れると、不思議と静かな語らいが始まるんですよ。中国茶の世界では『茶縁』という言葉があります。お茶を飲みながら労り合ったり、笑い合ったりして友人たちと過ごすひとときは、私にとって何ものにも代え難い、ほっとする時間です」
『クロワッサン』1126号より
広告