三東サイさんと行く、出雲大社
撮影・三東サイ 文・大池明日香
【出雲大社】
日本神話の神々の地を訪れ、太古の祈りに思いを馳せる。
八雲立つと日本最古の和歌に詠まれ、国の創生を描いた神話の地として守り継がれる出雲。その壮大な物語の舞台となるのが、かつて杵築大社(きづきのおおやしろ)と呼ばれ、最も歴史の長い神社のひとつとされる出雲大社(いづもおおやしろ)である。鳥居をくぐり、松の参道の先にある境内に足を踏み入れると、森厳な空気に心が引き締まる。共に訪れたのは、島根出身で神社の神職も務めていた写真家の三東サイさんだ。
「特別な思いを持って参拝する人も多いですが、自分にとっては空気や水のように当たり前にそこにある存在。何でもない一本の木が、いつしか御神木として崇拝されるように、神社というのは自然の一部なんですよね。ただここに来て、ありがとうと感謝する。島根へ来ると自ずと足が赴く場所です」
国づくりを成し遂げ、人や仕事などあらゆる縁を結ぶとされる大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)を本殿に祀るここは、朝から多くの参拝客で賑わっている。出雲大社の作法の二礼四拍手一礼で御本殿を拝んだら、瑞垣に沿って右回りに歩を進め、大国主大神の父神とされる素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祀る素鵞社(そがのやしろ)に拝礼してひと回り。雨が激しく打ち付けたかと思えば眩しいほど日が差すなど、目まぐるしく変わる朝の天気が、ここではどこか神秘的に思える。
「普段、仕事以外では、携帯でもあまり撮らないですが、出雲大社ではよく撮りますね。いつ来ても違う表情を捉えられる。ここに古代から脈々と続く物語があることも含めて、魅力的なモチーフだと感じています。昔ながらの聖地と呼ばれる場所には、レンズを通して見たとしても、有無を言わさず納得させられるような力がありますね」
出雲神話はもとよりだが、2000年に発見された大杉を束ねた柱の存在で、本殿がかつて高さ16丈(約48メートル)もの巨大な空中神殿だったという社伝も、三東さんを夢中にさせる。
「どうしてこの場所にそれだけの規模の建造物を、祈るためだけにつくったのか。ここに来て想像力を働かせながら、かつての人々に思いを馳せてみることで、生命の原点に立ち返ることができる。神さまってありがたいというけれど今ひとつピンとこない人も、長い間、特別に守られ続けてきた土地に来てみたら、不思議と“わからないけど、なんだかわかる”というのを体現できるんですよね。こういう自然の中だからこそ、感じられることがある」
神々が集う、祈りの始まりの出雲の地で、遥か昔の祖先とやり取りするかのような、壮大な時間を旅したい。
縁結びの神様として年間200万人以上の参拝客が訪れる。因幡の白うさぎ神話でも知られ、各所にうさぎの石像も。出雲縁結び空港から、レンタカーやタクシーなど、車で約30分。1日2本の直通空港連絡バス、または、JR出雲市駅経由のバスで約35分。JR出雲市駅から、神社最寄りの出雲大社連絡所バス停で降りて徒歩約1分。
●島根県出雲市大社町杵築東195
TEL.0853・53・3100(出雲大社社務所:8時30分~17時)
『クロワッサン』1132号より
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