研ぎの達人がいるかっぱ橋の老舗で、料理家の山田英季さんが選んだ3本の包丁。
撮影・中川 淳 文・輪湖雅江
[包丁]@かまた刃研社
研ぎの達人が待つ老舗で一生使える刃物を見極めたい。
「自分に合う道具を探す秘訣は、実際に見て触れて、お店の人と話すこと」
そう語るのは、旅先でも必ず道具街を訪れるという料理家の山田英季さん。プロも通う台所道具の問屋街かっぱ橋では、店の人こそが知恵の宝庫だ。
そんなかっぱ橋界隈ではここ数年、包丁が大ブーム。約800mの通りに20数件の専門店が並んでいる。
「研ぎや修理ができる店、つまり刃を扱う技術者がいる店を選びましょう」と山田さんが訪れたのは、1923年創業の『かまた刃研社(はけんしゃ)』。まずは店主の鎌田晴一さんにおすすめを聞いてみた
「よく使われているのは、幅が広めで刃渡り18cmほどの三徳包丁でしょうか。また、ご家庭でも本格的に料理したい方には、細身で先端が鋭い牛刀をご提案します。肉の筋もよく切れますし、少し長めの21cmですと、刺身や柔らかい食材にもスッと刃が入ります」
確かにそうですね、と山田さん。
「今はまな板も小さめが好まれているので、21cmより長い包丁は出番が少ないかもしれません。むしろ軽くて取り回しのいいペティナイフがあると、料理の幅が広がりそうです」と気になる包丁を手に取って、握りやすさを確かめる。何か、よしあしの目安みたいなものはあるのだろうか。
「握った時にある程度重さを感じるほうが、力をかけずに切れるし安定します。手になじみやすいのは木製の柄。手入れが楽なステンレス柄も人気ですが、中が空洞のものは軽すぎて使いづらいと言う方もいらっしゃいます」と鎌田さん。
握り方も大切で、全体の中心(柄の付け根)に中指を当ててから握るのが正解だそう。
「また、よく切れるのは鋼(はがね)の刃ですが、錆びやすさが難点です。今はステンレスも上質なものが多いので、私どもはステンレス刃をすすめています。そして実は、切れ味を左右するのは材の種類よりも刃の仕上げなのです」
鎌田さんによれば、通常の包丁は本来の切れ味の7~8割という状態で店に並ぶ。その刃をより薄く研ぎ直す「本刃付け」をすることで、しっかり切れて使い手に合う包丁に仕上がるのだ。なるほど、山田さんが「研ぎができる店」を推した理由はここにあった。
こうして山田さんが選んだのは、下の3本。握りやすさ、切れ味に加え、「姿の美しさも決め手です。見た目が好きだと料理も楽しくなりますよね」。
(包丁)おすすめは18~21cmの牛刀。 長めのペティナイフも人気です。
日本で昔から使われていた菜切り包丁と、先端が鋭く肉や硬い食材も捌ける牛刀。そのいいとこ取りで生まれたのが三徳包丁。それぞれに洋包丁(刃を両側から付けた両刃)と和包丁(片刃)がある。
三徳包丁
基本の一本にはコレ。錆びに強いステンレスを。
牛刀
本格的に料理するなら、細身で先端が鋭い牛刀。
ペティナイフ
あると楽しさが増す刃渡り15cmの小型包丁。
かまた刃研社
1923年、浅草で刃物の研磨業として創業。購入した包丁の手彫り名入れや、店主による月2回の包丁研ぎ教室も好評。
●東京都台東区松が谷2・12・6
TEL.03・3841・4205
営業時間:10時~18時 不定休
『クロワッサン』1117号より ※価格等は取材時のものです。