「並んで撮るのは結婚式以来?」「新鮮な感じがしますね」日本舞踊家・藤間勘十郎さん・紗也子さんの着物の時間。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美(勘十郎さんヘアメイク、紗也子さんメイク) 着付け・小田桐はるみ(紗也子さん) 文・大澤はつ江
「伝統芸能の日本舞踊に触れてほしい。ダンスとは違った魅力がありますよ。」
日本の伝統芸能のひとつ、日本舞踊。現在、200以上の流派があるといわれている。その中で300年以上にわたり歌舞伎の振付師、舞踊家として日本舞踊を継承し、その魅力を伝えている宗家藤間流。
「22歳のときに先代から藤間宗家を受け継ぎました」(藤間勘十郎さん)
母の七世勘十郎(現・三世藤間勘祖(ふじまかんそ))と祖父六世勘十郎(人間国宝)から手ほどきを受け、初舞台はなんと2歳半のとき。
「基礎はもちろんですが、表現者としての姿勢や舞踊への深い思いを学びました。踊りの振付は音楽、衣裳、舞台美術なども知らなければ務まらない。総合芸術だと思っています」
歌舞伎等の振付や演出、若手俳優の舞踊指導、と忙しい日々を過ごす勘十郎さん。それを支えているのが妻の紗也子さんだ。
「宗家藤間流の各地の稽古場や劇場など、日本全国を飛び回っていますから、食生活を含め健康管理を心がけています」(紗也子さん)
今回の撮影場所は宗家藤間流の稽古場。勘十郎さんは夏紬の薄い鼠色の着物と薄茶の羽織で洒脱な装い。紗也子さんは京都の老舗呉服店『に志田』で誂えた「かづら帯」柄の絽訪問着に絽の袋帯を合わせた装いで並ぶ。
「私が振付をした歌舞伎などを観に行くときによく着る夏着物です。稽古場や舞踊会の楽屋などは浴衣。子どものころから着物には親しんでいますから、洋服と同じ感覚ですね」
と勘十郎さん。一方の紗也子さんも、
「小学生のときからお茶を、中学生から三味線を習っていたので、着付けは自然にできるようになりました。今日の着物は12年前、結婚の際に実家の母が選んでくれたものです」
「こうしてふたり並んで写真を撮るのは、結婚式以来かもしれない(笑)」(勘十郎さん)
「そうですね(笑)。私は出身が関西なので着物は幼いころから『に志田』さんにお世話になっています。色や柄は“はんなり”と優しい感じですが、義母の黒や紺、茶といった色合いの着物をきりっと着付ける姿はかっこいいなと思います」(紗也子さん)
「祖父も江戸前のきりりとした着こなしでした。ちょっとでも衿を抜き過ぎると『詰めなさい』と。その一方で遊び心がある人で『K』と『F』を組み合わせてこの洒落紋(下)を考案したり。これ、カンジュウロウ・フジマなんです。デニム地の着物も誂えていましたが重いらしく、あまり着ていなかったような」
そんなふたりに着物のこだわりを聞くと、
「私の着物は着丈と裄(ゆき)が長めです。踊りは袖が重要な役目をすることが多いんです。例えば手先を袖の中に入れて口元を隠す所作などのとき、裄が長いと美しく見える。長時間、移動などで座っていると、裾が上がってくるので着丈も長め。あとは上前の先を少し上げて合わせると粋な感じに」(勘十郎さん)
「清潔感を心がけています。そして自分に合った着こなしも勉強中です」(紗也子さん)
「今の自分の目で似合うものを選んで、着こなしていけばいいと思う」(勘十郎さん)
日本舞踊の伝統を守りつつ、新しい風を取り込んでいく勘十郎さん。
「日本人が築き上げた美意識を次世代に繋げることは重要なことです。そのうえで新しい試みも行いたい。たくさんの方に着物や日本舞踊に触れて楽しんでほしいですね。ダンスと違う魅力があると思います」
『クロワッサン』1122号より
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