達人が試食しながら語り合う、日本の冷凍食品の最前線。
業界の事情に詳しい二人が、最先端を語り合う。
撮影・黒川ひろみ 構成&文・河野友紀
毎年300種類程度の新製品が出るという、冷凍食品市場。40年以上、その業界を見つめてきたジャーナリストの山本純子さんと、2万食以上を食べたという冷凍食品マイスターのタケムラダイさんが、今の日本の冷凍食品の最前線について、注目の商品を試食しながら語り合った。
山本純子さん(以下、山本) 昨年、日本の冷凍食品の消費量が過去最高を記録したんですよ。300万トン近い量で、人口で割ると、およそ1人23.9kgくらい。
タケムラダイさん(以下、タケムラ) 以前は業務用のほうが消費量が多かったのですが、コロナ禍で数字がグッと落ちまして、そちらはまだ回復していない。その状況でなぜ過去最高を記録したのかというと、家庭用の消費量が伸びているからなんですよね。
山本 そう。家庭用はまさに右肩上がり状態なんです。
タケムラ 最近コンビニの冷凍コーナーに冷凍食品が平置きされていますが、僕が冷食にハマった20年前にはこんな状況は考えられなかった(笑)。みなさんの生活に浸透してきたんだなと、しみじみしています。
山本 “凍らせる〟ことで、できたての一番美味しいところで時を止めることができ、さらにその状態でどこにでも持っていける冷食。私は冷食って〝時間を止め、空間を超越する〟食べ物だと思っているんです。
タケムラ めちゃくちゃかっこいい。なんか戦隊モノみたいですね(笑)。
山本 そうですよ、冷凍食品はかっこいい食べ物なんです! だって余分な保存料を使わずに美味しさをキープできるんですから。
タケムラ 凍らせることで菌を増殖させない。腐ることが防げる、と。
山本 ね、かっこいいでしょう(笑)。でもその魅力がね、あまり伝わってない気がするんですよ……。
タケムラ でもね、コロナ禍の外出できない状況で冷食を食べる方が増え、そこで魅力に気がついた人は多いと思いますよ。だからこそ昨年の消費量が過去最高を記録したのでは。
ブームが広がりつつあるラーメン、レンジで茹でたては再現できる!?
山本 メーカーさん、アイディアを駆使してユニークな商品をどんどん出してきていますしね。そんな中でこの秋のトレンドの一つがラーメンでしょう。
タケムラ ラーメンの進化、すごいですよね! 最近、冷凍食品の自販機が流行っていますが、そこで餃子の次に売れているのがラーメン。特に女性からのニーズが高いと聞いています。
【この秋、最も盛り上がりを見せているのが、冷凍ラーメン。】
山本 最近の商品で私が最も感動したのは、レンジとお湯だけで作れる日清食品冷凍の「冷凍 日清本麺 ワンタン麺」。麺の美味しさはもちろんですが、具のワンタンの再現性が素晴らしい。ワンタンが氷の中に閉じ込められていて、電子レンジで加熱するとその氷が溶け出し、袋の中に充満した水蒸気が麺とワンタンを蒸し上げる仕組み。
タケムラ それを、お湯で溶いたスープの中にダイブさせたらできあがり。
山本 その仕上げの仕方って、もうほぼラーメン屋さんですよ。
タケムラ トレンドという意味で僕が注目しているのは、主食と主菜が一つの容器に盛り付けられている、いわゆるワンプレート冷食。一度のレンジ加熱で、一皿に盛られた異なる料理をどれもちょうどよく温めるのって、想像以上に難しいんですよ。以前からワンプレート商品を出しているニップンさんは、トレーの形を工夫することでそれを実現。「よくばりプレート」シリーズのプレートがまさにそれです!
山本 トレーの底部分に少し角度をつけたことで、まんべんなく加熱ができるようになっています。
タケムラ これね、本当にすごいことなんですよ、……あまり知られていないと思いますが(笑)。
山本 プレートもので私が感動したのは、ニッスイの「まんぞくプレート」シリーズ。白いご飯とおかずのセットなんですが、この白いご飯が本当にすごいんです。炊きたてより炊きたて。白飯っておいしく再現するのが難しく、今まであまり冷凍食品にはなっていなかったのですが、昨年ニッスイがチャレンジして、見事に成功。
タケムラ このシリーズが登場したときには食品専門記者の間で、大いに話題になりましたね。
山本 このシリーズを立ち上げるために、グループ工場に新しいラインを作ったという、ニッスイさんの意気込みにも心を掴まれましたよ。
タケムラ プレートものはひとり暮らしの人にも人気ですし、冷凍庫で立てて収納できるのがいいですよね。同じプレートでも、コンビニのお弁当は縦にできないですからね。
山本 同じくトレンドの文脈で見たときにこれから伸びそうなのが、健康志向の冷食でしょうか。
タケムラ 味の素冷凍食品の「白チャーハン」ですね! 味の素冷凍食品のチャーハンといえば、ガツン&こってりの『ザ★チャーハン』が大いに話題になりましたが、同じように味付けがしっかりされているチャーハンなのに、こちらは減塩仕上げ。こういった食の多様性に応えるような商品に大手メーカーが挑戦するというのは、すごくいい動きだと思って見ています。
山本 そこには味の素というグループ全体が長年、アミノ酸を研究している、その実力がいかんなく発揮されているのでは……と、私は思っています。これはある種の社会貢献ですよね。
タケムラ しかも、できあがったときの香りが素晴らしい! 香りを嗅ぐほどに、食欲がそそられます。
数多の商品がある中で、パスタは いち早く差別化が進行中。
タケムラ 偶然にも、僕も山本さんも、〝ワンランク上〟系のパスタをチョイスしていましたね。
【味&具材の量で、ワンランク上のパスタが続々登場。】
山本 今、いわゆる少しお値段は高い、でも、具材がたっぷり入ったパスタ、増えてませんか?
タケムラ 増えてます! 山本さんが推薦されたニップンの「オーマイプレミアム 至極」シリーズは、かなり具材がゴロゴロ入っていますよね。食べる前にまず見た目で満足感をしっかり満たしてくれる。
山本 具材の量、振り切ってますよね。〝冷凍パスタって具が少ない〟と言う人たちもいる中で、「これでもか!」というくらいたっぷり具を入れてきた。どの商品も、びっくりするくらい具だくさんで、絶対がっかりしない。
タケムラ 「マ・マー THE PASTA Specialite」シリーズも同じで、具がたくさん入っていて味付けもパスタの味自体も、いわゆる〝ちょっと上〟の味わいなんです。冷凍パスタって商品数も多いので、こうやって少しずつ差別化が進んでいるような気もします。
山本 同じ小麦粉を使った商品で、まったく違うベクトルの商品を推薦してもいいですか?
タケムラ もちろん。なんですか?
山本 大阪の、粉ものに強い冷凍食品会社がありまして……。
タケムラ かねます食品ですね(笑)。
山本 ハイ! そのメーカーが発売した、チーズの入ったたこ焼きがとても美味しいんです。
【大阪の〝粉もんの雄の、変わり種たこ焼きが話題!】
タケムラ 僕のような、〝一家に一台たこ焼き器〟な大阪出身者からすると、たこ焼きにチーズを入れるのはごく普通のことですが、確かに冷凍食品でそれって、なかったかもしれません。
山本 メーカーの社長さん自ら、多種多様なチーズを取り寄せ試作を繰り返し、〝チェダーチーズを2g〟という黄金率を導き出したそうです。
タケムラ なるほど。このふわふわの感じ、ちょっと明石焼きっぽい感じもありますね。ちなみに大阪のツウは、たこ焼きにはなにもかけずに食べるのですが、これもそのままでも美味しい。
山本 そして、最後がデザートですね。タケムラさん推薦のローソンの冷凍デザートシリーズ、品数も多くて楽しいですよね。
タケムラ 各社からいろいろ出ていますが、その中でもローソンはすごく冷凍デザートに力を入れている感じがします。バリエーションが豊富!
【冷凍庫から出してすぐ食べられる商品に注目。】
山本 このマカロン、壊れないように蓋付き容器に入っているんですね。
タケムラ そうなんですよ。あと、カヌレもとても美味しいんです。このままでも食べられますが、トースターなどで軽くベイクすると、周りがカリッと仕上がって、さらに美味しさが増します。ちょっと切ってみましょう。
山本 香りがいいですね。
タケムラ 焦がしバターの香りに加え、切るとさらにラム酒の香りがふわっと広がる。カヌレならではの焼きあがった外側と、中のクリーミーな食感、2つのコントラストも楽しめる本格派。しかも価格も手ごろです。
山本 冷凍庫に常備して、好きなときに食べられますしね。ジェンダー的な構造の見直しが叫ばれる昨今、もはや女性だけでなく、男性も子どももお年寄りも、みんな料理をする当事者なんです。だからこそ、冷凍食品をうまく活用して食事を楽しみたい。
タケムラ 「昼ごはんはそうめんでいい」みたいな言い方をする男性の存在が、よくネットで炎上してます。だったらまず、自分で好みの冷食を温めましょうよ!って思います。
山本 ちなみに私の夫、コロナ禍で家で仕事の後はぼーっとしていて。いいタイミングだと思い、冷食の餃子を出して「説明どおりに作れば絶対にできるから!」と言ってみたんです。結果、夫は我が家の〝冷凍餃子マイスター〟に昇格。今はどんな冷凍餃子でも素晴らしく焼けるようになりました。
タケムラ まさにウィンウィン。家庭に平和をもたらすのは冷食かも。
山本 絶対にそうだと信じてます(笑)。
『クロワッサン』1103号より