くらし

人間関係、ストレス、介護や将来への不安…林真理子さんが答える9つの悩み。

これまでさまざまな悩みに答えてきた作家・林真理子さんに、幸せを掴むためのヒントを教えてもらいました。
  • 撮影・天日恵美子 ヘア&メイク・赤松絵利(esper.) 文・今井 恵

愛し愛され、軽やかに生きるコツとは?

心を若く保つむずかしさ。

「軽やかに年を重ねるためには何よりも元気でいることが必要。林さんは何歳になっても好奇心やチャレンジする心をお持ちですが、年々腰も心も重くなるばかり。いつまでも心が若くいられる秘訣は?」

日本大学の理事長になってから、私の生活は激変しました。

職員から「理事長、毎日こんなに会議やら課題があって大変ですね」と言われますが「面白いですよ。今日はどんなことに出合うのか、毎日楽しみです」と答えて笑われました。

私の好きな言葉に「運命を楽しむ」がありますが、それは私自身のモットーでもあります。今の状況も「ふつうは経験できない」と思うと、すごく楽しくなります。

私の夜の予定は3カ月前から埋まっていきますが、なぜこれほどご飯に誘われるのか? それはあらゆるジャンルの話を打ち返す情報量を持っているから。素人なりの知識ばかりですが「林さんは話題が豊富で楽しい」と言われるんです。

40歳以降は、積み重ねてきたものを発揮すべきなんです。下世話な話や悪口もただ嫌厭するのではなく、他人に不快感を与えない絶妙な匙加減で返すことも時に必要。これも私の特技かもしれません。そしてよく食べ、よく寝て、毎日楽しく暮らす。それこそが、心を若く保ち、軽やかに生きる何よりの秘訣ではないでしょうか。

ときめきとは、もう一生無縁?

「以前は当然のように恋愛し、好きな芸能人もいました。気付けば40代、仕事や日々の生活は充実していますが、パートナーはおらず、ときめきもない。年齢に合った相手の見つけ方もわかりません」

若い頃は、私も中東に駐在する男性と恋愛をし、イスタンブールで待ち合わせてデートするなんて、ときめきに満ちた時間を過ごしましたが、この年になると何も残らず……。

いわゆる「推し活」に流れる方もいますが、私には生の体温が感じられないかも。

まだパートナーに出会えず、ときめきもない。でもどうしても結婚したいと思うのなら、私のような“絶滅危惧種の親切なお見合いおばさん”を見つけるか、マッチングアプリに頼るのも手です。

最近、私の周りでもマッチングアプリを利用する方がとても多くて驚きます。先日も、とある出版社の男性たちとご飯を食べていたら、3人のうちの2人から「アプリで結婚しました」と報告を受けました。アプリで結婚した人も幸せになっています。でもどのアプリを使うのかは体験者に聞くなどして、良質なところを選んでください。

ときめきがなくとも、出会ってからときめけばいいんです。手段云々より、幸せを感じるが勝ちだと思います。

ストレス過多な社会について。

「気づくとインスタグラムやTwitterばかりを眺め、知らなくていいことを知って振り回されている自分がいます。情報は必要だけど、それに振り回され、感情が揺れてしまう自分が嫌です」

一日のうち、少ない時間でもいいから、意識してスマートフォンの音を消し、画面をふせる時間を作ってみてはいかがでしょう。

他人のSNSを見ていても仕方ありません。世の中にはインスタに「いいね」をつけてもらうためだけに生きているような人もいますから。本当の「いいね」は、自分自身の仕事の評価や行動で得るものです。

私の場合は書いた小説やエッセイに他人様から「いいね」をもらえるから、心が満足感を得ているのでしょうか。やはり誰もが褒められたい、羨ましがられたいものです。でもスマホの中での賞賛なんて自己満足でしかありません。もっと現実の世界で褒められることを見つけましょう。ちなみに私は他人のSNSは一切見ていません。

夫と自分のこれから。

「私は友だちが多く、趣味も多いので、土日もわりと出かけがち。「もっと夫婦の時間を持ちたい」と、休日に私が出かけるたび、機嫌が悪くなる夫にうんざりです。共通の趣味もないのに!」

私の夫は家で過ごすのが好きな人なので、あまり夫婦で出かけたいとは言わないけれど、だからといって私が休日に家にいないのは不快のようです(笑)。

それだけに週末に私が家を空ける際は、夕食に気を使っています。たとえば昼間から出かけて、晩ご飯も友人と一緒に……なんて日は、一度帰宅をして夫のご飯を作ることもあります。

先日はすき焼きを作りました。困った時のすき焼き。なぜなら牛肉を買ってきて、その他の材料を切って並べるだけだからです。簡単で、すぐに見栄えが整います。しかもすき焼きが嫌いという男性には出会ったことがありません。そんなふうに手をかけない、夫もうれしいメニューをひとつ、見つけましょう。

夫を不機嫌にさせない最低限の気遣いをしつつ、自分は楽しむ! これに限ります。

家族、知人友人、人間関係の憂鬱。

「コロナ禍に家にひとりでいることに慣れ、同時に会社で人と一緒に仕事をすることから離れ、人との付き合い方や距離感がわからなくなって……。人から言われることにいちいち落ち込むことも」

わかります。私もとくにコピーライター時代は、人間関係で大いに悩みました。

短い会社員時代には、職場で好かれていなかったし、露骨に仲間はずれにされたこともあります。その時は、すごく傷つきながらも「仲間はずれにされても、私にはほかの友だちがいるから」と「あなたたちがやっていることで私は傷ついていないのよ」という態度で乗り切っていました。

学生時代なら嫌いな人がいても遠ざかればいいけれど、仕事の場では人の好き嫌いだけでやっていけない部分があるし、人間関係もひとつの鍛錬の場なんです。人との付き合い方で、学ぶことは本当にたくさんあるんですよ。嫌いな人とも付き合う。理不尽なことも飲み込む。そうするうちに自分が傷つかない方法を学び、嫌な人と付き合う術も、理不尽な言葉を回避する方法も身につけられるのです。

私もたくさん傷ついて学び、少しずつ心が強くなったし、いろいろ気遣える人にもなりました。そうして今では「林さんとご飯に行きたい」と、多くの方々に誘われる人間になりました。

いよいよやってくる親の介護。

「周りには早くも介護生活に入った女性もいます。親はいつしか老いるもの。その時に後悔しない対処法はあるのでしょうか。林さん自身、こうしておけばよかったという後悔はありますか?」

私も母が101歳で亡くなるまで、毎週電車で往復3時間かけてお見舞いに通うという遠距離介護を20年以上続けていました。

周りには親を引き取って自分の手でお世話をしている方もいるし、施設に入れてよかったのかな? きっと母は私のことを思いやって施設行きを選んだんだろうなと、ずっと悔いばかりを感じていました。

知人の女性は寝たきりになってしまったお母様を自宅に引き取り、きれいにマニキュアまで塗って、長年丁寧に丁寧に看護されていました。それはご自身を犠牲にして生きる。そんな姿でした。それなのに、お母様が亡くなった時「私がもう少しこうしていれば、長生きしてくれたかも」と、大泣きしていたんです。こんな方でも悔いが残るのだから、悔いを残さない介護をしている人はひとりもいないのです。

もし自分が働き盛りの時に親が介護を必要とした場合、公の施設に任せても罪悪感を感じる必要はありません。一番大切なのは自分の人生です。親を思いやる心があればいいし、それぞれができる範囲で、できることをすればいいと私は思います。

子育てのイライラやハラハラ。

「子どもはかわいい。しっかり向き合って育てたい。その反面、仕事や家事に追われ、気づくと眉間にシワを寄せ、子どもにあたり、夫にあたってしまう。楽しく、明るく子育てをしたいのですが」

子どもが小さい頃は、なかなか自分の時間が作れません。私も毎日イライラしていました。

娘が幼稚園時代は子ども中心のスケジュールに切り替え、午前中の予定は入れないようにしたし、出張もお断りしていました。

シングルマザーのママ友が「あなたの学費のためにママは仕事をがんばっているのよ」と言っていた時は「気持ちはわかるけど、ママはお仕事が大好きだからがんばっているのよと伝えたほうがいいよ。子どもが負担になる話し方はだめよ」とアドバイスしたことがあります。

私もことあるごとに娘に「ママは仕事がとても好きなの」と話していました。とくに働くママさんは「もっとこうしてあげたい」と、やりたいことをやってあげられない自分にイライラしがちだと思うけど、それは完璧を目指すからなんです。

家事や仕事で手一杯の日はシッターさんに頼ったり、楽になれる方法を探りました。とくにママ友は互助会です。お互いの子どもを預かりあい、自分時間を作ったことも。そうしてママと子どもが毎日笑顔でいれば、子育ては120点だと思っていいんです。

仕事やキャリアの悩み。

「産休育休で仕事の一線から離脱して以来、自分は評価をされていない気がします。転職にも踏ん切りがつかないし、40代後半になるとある程度のポジションがないと居場所がなくなる気も」

若い頃の私は、ほぼ毎日心の中で「なんで認めてもらえないんだろう」という言葉を繰り返していました。でもコピーライター時代の私は、本当にひどかったんです。文字は間違えるわ、行数を間違えるわで「おかしいんじゃないか」と心配されたほど。

当時の師匠であった糸井重里さんから「コピーは100を10にするものだけど、いみじくも君の言動は10を100にする」と言われました。その言葉どおり、私は小説家に向いていたんですね。

転職に躊躇とありますが、私のように少しフィールドを変えるという手もあるのではないでしょうか。そして認められない、悔しいという思いは、ある意味大きな原動力。そこで努力すれば、のちのち実力となって戻ってくるはず。

最後に私が経験した妬みの気持ちを消す方法をひとつアドバイスします。「なんでこの人ばっかり」と思う相手に出会ったら、その人に自分から近づいてみましょう。友だちになると意外な悩みや苦労があるんだとわかり、いつのまにか妬む気持ちがスッと消えることがありますよ。

将来への漠然とした不安。

「老後の貯金は足りるのか、いつまで健康でいられるか、親は何歳まで元気なのか。若い頃と違い将来に希望が持てなくなってきました。そんな気分に陥った時、林さんはどう切り替える?」

どれほど収入があっても、金銭面や健康面といった将来の不安は消えないものだと思います。たとえ10億の貯蓄があっても不安を抱えている人はいるし、裕福なのに与えられた人生を使い切らず、とても残念な老後を迎えている方も見ています。

60代以降の人生は、ある意味自分自身の採点表。生き方やそれまでの行いが自分の幸せに反映するのではないでしょうか。

私もそれに関してはよくやった!と自負しています。人に親切にしてきたし、仕事も一生懸命しています。明日、何があるかは誰もわからないんだから、クヨクヨするばかりでなく、最低限の備えをしたら、あとは楽しもうと考えたらいかがですか? 

私はある程度の年齢になったら、自分ができる範囲でボランティアに取り組むことをお勧めします。世の中の仕組みがわかるし、いろいろなことを学べます。「ありがとう」とかけられる人の言葉に喜びも感じられます。不安が増える反面、年齢を重ねると楽しいこともいっぱい。不安な気持ちに縛られず、それを見つけないと! もっと楽しく生きましょう。

林 真理子

林 真理子 さん (はやし・まりこ)

小説家、エッセイスト

1954年生まれ。作家として活躍の一方、2022年7月に学校法人日本大学理事長に就任。同年発売の新書『成熟スイッチ』が大ヒット。

『クロワッサン』1099号より

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