『顔は言葉でできている!』著者、松本千登世さんインタビュー。「いつも誰かの言葉を拾って歩いています」
撮影・森山祐子 文・合川翔子(編集部)
「いつも誰かの言葉を拾って歩いています」
どんなふうにいい顔にしていくか。その顔つきを育てるのは、コスメではなく「言葉」だと、美容エディターの松本千登世さんは言う。美容のプロの松本さんが、本書で言葉の効力に着目したのはなぜか。
「ある日、ステラ・マッカートニーのソールの高いパンプスを頑張って履いていたんです。でも、すぐに靴ずれを起こしてしまって。さらに雨まで降ってきて、今日は何から何までついてない……と。コンビニで絆創膏を買い求めると、店員さんが“お大事に”とひと言添えてくれて。その瞬間、眉間にシワを寄せた顔から、口角と頬が上がった顔へと一瞬にして自分の顔が変わるのがわかりました」
大人の顔はこうしてできあがる、と確信したという松本さん。
「メイクはなくてはならないツールですが、何を感じ、どう生きるかが、そのまま顔に刻まれていくのだと気づきました」
本書は、日常のなかで出合った心動いた言葉をストーリーとともに綴ったもの。
「負けを知っている人がいいわね」「傷つかなくちゃ、味わいなんて生まれないんじゃないかな?」など、悩みや失敗との向き合い方を教えてくれる言葉も多い。「コンプレックスはエネルギーの元なんだから」もそのひとつ。
「これは、スタイリストさんが発した言葉です。他者のコンプレックスに対して、“全然気にしなくていいよ、かわいいよ”というのが大人の視点だと思っていたのですが、いっぱい悩んだほうがいいと。向き合って苦しんで自分のものにしていく過程が、人として成熟する糧になるのだと教えられました」
受け入れることが、人としての奥行きやタフさにつながる。それはエイジングも同様。年齢による変化には悲観的になりがちだが、自分を育てる伸びしろにもなり得る。
「シワができることはショックですが、大人の肌だからこそ似合うものがあると知りました。髪もハリがなくなった分、切りっぱなしのボブができるように。トレンドを必死で追いかけ、浮かない人、沈まない人を演じていた以前と比べ、今のほうが自分らしくおしゃれを楽しんでいるように思います」
うまく収まろうとせず、はみ出すことを面白がる。
本書から読者に今届けたいものとして挙げてもらったのが「よくできました、100点満点。でも、つまんない」という言葉。これは、あるスタッフが師匠に言われたもの。
「失敗したくない、はみ出すのが怖いという“優等生的生き方”が安心というムードが定着しています。でも、20点でもいいし、それが200点になるかもしれない。正解を当てにいったり、うまく収まろうとしなくていいんです。口紅の色、髪型、服、料理、何でもいい。“いつも”からちょっとはみ出てみることを面白がってほしいなと」
友人に「言葉のアスリート」と命名されたという松本さん。日々の会話からどんな球でもキャッチし、こぼれた球さえも拾い上げ、光を当て続けていく。これからどんな言葉を届けてくれるのか楽しみだ。
『クロワッサン』1096号より
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