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『こんとんの居場所』著者、山野辺太郎さんインタビュー。「死とは渾沌へ還ることなのかもしれない」

文・鳥澤 光 撮影・石渡 朋

「死とは渾沌へ還ることなのかもしれない」

山野辺太郎(やまのべ・たろう)さん●1975年、福島県生まれ。2018年「いつか深い穴に落ちるまで」で文藝賞を受賞しデビュー。国語教科書の編集者として働きながら執筆を続ける。ほかに「孤島の飛来人」「恐竜時代が終わらない」などの作品がある。
山野辺太郎(やまのべ・たろう)さん●1975年、福島県生まれ。2018年「いつか深い穴に落ちるまで」で文藝賞を受賞しデビュー。国語教科書の編集者として働きながら執筆を続ける。ほかに「孤島の飛来人」「恐竜時代が終わらない」などの作品がある。

〈渾沌島取材記者/経験不問要覚悟/長期可薄給裸有〉。
スポーツ新聞の三行広告を目にした主人公・純一が「渾沌島」を目指し船に乗る。

同乗者は5人。「こんとん」とも「渾沌島」とも呼び習わされるとあるものの調査と保護を続ける自称生物学者の園田、隊長の竹下、同じく応募者の千夜子、船を操る2人の男と共に房総半島から海洋へ。

これまでの作品で、日本からブラジルへ地球を貫く穴を掘り、風船を背に海上を飛び、ジュラ紀の森を恐竜の目で眺めては、奇妙であたたかい物語で読者を驚かせてきた山野辺太郎さん。『こんとんの居場所』という小説はどのように生まれたのだろう。

「作品の原型から数えると15年ほど前から少しずつ書き、育ててきた小説です。発端は『荘子』の〈渾沌七竅(こんとんしちきょう)に死す〉を読み、荘子の考えるスケールの広大さと自由さに惹かれたことでした。
〈渾沌〉という無秩序なエネルギーに満ちた存在が7つの穴を開けられたことで死んでしまう。人間は逆に死とともに〈渾沌〉へと還っていくのだと想像してみると、死とは恐ろしいものではなく、むしろ喜ばしいことかもしれないと捉え直すことができたんです。
『荘子』が好きで何度も読んでいるのですが、短い寓話というか奇想天外な話が集められていて、荘子は僕にとってホラ話の大先輩でもあります」

生と死を分かつ境界線をフィクションの力で越境する。

「一緒に収められた『白い霧』も数年前から書いていたもので、何だかわからない感染症のようなものが街に広がっていくという筋立てです。コロナ禍によって、現実との距離が近くなりすぎてしまったかなとお蔵入りにしていました。でも読み返してみると、家族の関係や子どもの想いなどの描写に自分を出せていたので、磨き直して世に出すことにしました」

「白い霧」では、何が起こっているのかは明言されないまま、不可思議な事象によって、リズミカルに軽やかに日常が塗り替えられる。

「『こんとんの居場所』同様、悲劇的であるかもしれない出来事が起こります。でも、人が蒸発することを、固体ないし液体から気体に変化したのだと捉えてみたら、それは進化かもしれませんよね。死への恐れと死に心惹かれるという矛盾を、死のようであって死ではない出来事によって解消できないかと考えました。あり得ない設定を基礎に打つと、そこに向かって小説が動き始めるんです」

山野辺さんが描く主人公はいつも働いている。もしやこの作品群は新種のお仕事小説なのだろうか。

「そのジャンルに該当するかは分かりませんが、就職までのモラトリアム期が長かったせいか、働くということがいまだに未知なんです。でも実際はなんとか働いて生活が成り立っている、という事実への驚きと喜びはいつもあります」

真面目に、同じ歩幅で働き続ける人物の姿が現実を生きる読み手を励まし、奇想が小説を駆動して、思いがけない景色を見せてくれる。

「こんとん」の謎を究明すべく渾沌島へ派遣される一行。のどかな時間から一転、かの地で主人公たちを待つ運命とは。 国書刊行会 2,090円
「こんとん」の謎を究明すべく渾沌島へ派遣される一行。のどかな時間から一転、かの地で主人公たちを待つ運命とは。 国書刊行会 2,090円

『クロワッサン』1097号より

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