「 1日2切れのカマンベールチーズが認知症発症を抑制」、発酵食のチーズは偉い。
あらためて知識を深めたい。
撮影・小林キユウ 文・三浦天紗子
片や、日本におけるナチュラルチーズブームの草分け的存在。片や、カマンベールチーズ摂取と認知機能との関連性を証明した研究者。こよなくチーズとお酒を愛するふたりの、味わい深いおしゃべりをどうぞ。
鈴木隆雄さん(以下、鈴木) 私は札幌出身で昭和30年代に小学生でした。酪農が比較的身近だった北海道でも、当時それほどチーズが家庭で普及していた感じはなかったですね。本間さんはいかがでしたか。
本間るみ子さん(以下、本間) 私も子どもの頃は、乳製品と言えば、牛乳やヨーグルトを家に配達してもらって食べていたという思い出です。母が、具にプロセスチーズを入れてくれたおにぎりが好きでした。
鈴木 中学時代、お弁当のごはんの真ん中に、6pチーズの分厚い塊を梅干し代わりに入れたのを、毎日持ってくる仲良しの同級生がいたんです。それが美味しそうで、うらやましかったのを思い出しました。ただ、チーズがもっと身近な食品になっていったのはやはり大学時代や院生時代……お酒のアテとして楽しむようになってからですね。プロセスチーズ以外の、裂けるチーズやとろけるスライスチーズなどが普及するのは’80年代以降でしょう。
本間 私は意外と早くそのストリング(裂ける)チーズに出合っているんです。1976年に1年間、アメリカに遊学に行ったのですが、そのときに知って面白いなと。その後、チーズ会社に就職してからもう一度アメリカに遊びに行き、ストリングチーズをお土産で買ってきたんですね。すると社長が早速目をつけて、それで雪印チーズ研究所で開発が始まったんですよ。
鈴木 それなら日本に最初にストリングチーズを持ち込んだのが本間さんだということですね。
本間 私は買ってきただけで、製法もわからないし、何もしてないです。日本には裂きイカ文化があったから、流行ったのかなと思ったり(笑)。
鈴木 とにかく、日本のチーズ消費量はとても伸びていますよね。
本間 若い世代が何にでもチーズをトッピングしたがるというのは大きいですよね。溶けたチーズのメニューがすごく出るようになっていて、まだ個々のチーズに何を合わせるかという段階ではなく「溶けてるから美味しいね」というような段階かもしれません。個性豊かなナチュラルチーズももっと食べてほしいなと思います。
カマンベールチーズは認知症予防に効果的。
鈴木 若い世代だけでなく、高齢者にもチーズなどの乳製品はもっと摂ってもらいたいですね。
軽度認知障害(MCI)の高齢者がカマンベールチーズを摂取すると、脳神経を保護する作用のある「BDNF」が増えることが、私が在籍していた東京都健康長寿医療センターや桜美林大学、株式会社明治の共同研究グループによる実験でわかったんです。
BDNFは、哺乳類の脳内で作られる重要な脳の栄養分で、記憶を司る海馬領域などに高濃度で存在しています。これが増えれば、記憶力や気力が向上し、認知症の発症を遅らせる可能性があります。加齢はBDNFを減らす大きな要因なので、いかに減らさないかがポイントです。
本間 BDNFという物質が認知機能と関係があって、カマンベールチーズを食べるだけでその物質が増やせるなら、認知症予防には朗報ですね。
鈴木 運動、特に有酸素運動をすると増えることはすでに証明されています。適切な身体活動がいちばんの予防対策であることは間違いないのですが、高齢になるほど、腰が痛い膝が痛いと運動ができにくくなってきます。そのときに不足の物質をサプリメント的に補う。カマンベールチーズは、最適の食品だと思います。
本間 どのくらいの量を食べればいいのですか。
鈴木 6分割されたカマンベールなどが売られていますね。あれを1日2ピース程度でいいと思います。朝1個、夜1個。
【BDNFはカマンベール を食べると増える。】
BDNFとは、神経細胞の派生、成長、維持、再生を促進させる、いわば脳の栄養になるタンパク質。血中BDNF濃度は、加齢、認知症、うつ、糖尿病などで低下する。ランダム(無作為)化比較試験で、軽度認知障害のある高齢女性がカマンベールチーズを摂取すると、BDNFの血中濃度が増加すると証明された。
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