くらし

火事の夜の親子の再会をドラマチックに描くお噺「火事息子」【柳家三三の「きょうも落語日和」】

  • イラストレーション・勝田 文

【演目】火事息子

あらすじ
火事が多い江戸の消防を担った火消しの中で、幕府直属「定火消し(じょうびけし)」の人足は〝臥煙(がえん)〟と呼ばれ、町火消しの人足より素の悪い者が多かった。

大きな質屋の一人息子が幼い頃から火事が好きで、親の止めるのも聞かず臥煙になったので勘当となる。火事のあった晩、蔵の目塗り(火が中に入らないよう戸や窓の隙間に泥など塗ること)に手間取る主人や番頭を見かねた息子が駆けつけて手伝う。礼を述べるための数年ぶりの親子の対面は、愛憎半ばする感情でぎこちなく…。

「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があったそうですが、火事も喧嘩もないに越したことはありません。けれども現実に、住む家が焼けてしまう恐怖と常に隣り合わせだった江戸の日常では、職人衆などは「財産を貯め込んでも仕方ない」というある種の諦念もあり、それが「宵越しの銭は持たない」に集約される、気っ風のいい江戸っ子を生んだ一因だったそうです。

しかし、大きな商人ともなれば奉公人や取引先との関係もあり、世間体もあって不肖の息子は勘当せざるを得なかった。けれど親心でやはり可愛くもある…。そんな気持ちの揺れるさまが、男親と女親の違いも含めて描かれた噺が「火事息子」です。
特別な長編でもないし、深刻な人情噺でもありませんが、火事の晩に起きた少しだけドラマチックな親子の再会。心温まる落語日和を味わっていただけると思いますよ。

柳家三三 さん (やなぎや・さんざ)

落語家

公演情報等は下記にて。http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1082号より

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