「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があったそうですが、火事も喧嘩もないに越したことはありません。けれども現実に、住む家が焼けてしまう恐怖と常に隣り合わせだった江戸の日常では、職人衆などは「財産を貯め込んでも仕方ない」というある種の諦念もあり、それが「宵越しの銭は持たない」に集約される、気っ風のいい江戸っ子を生んだ一因だったそうです。
しかし、大きな商人ともなれば奉公人や取引先との関係もあり、世間体もあって不肖の息子は勘当せざるを得なかった。けれど親心でやはり可愛くもある…。そんな気持ちの揺れるさまが、男親と女親の違いも含めて描かれた噺が「火事息子」です。
特別な長編でもないし、深刻な人情噺でもありませんが、火事の晩に起きた少しだけドラマチックな親子の再会。心温まる落語日和を味わっていただけると思いますよ。