「本当に使うものだけを置く」、料理研究家・野口英世さんのショールームのようなキッチン。
撮影・森山祐子 文・石飛カノ
ショールームと見紛うキッチンの持ち主は料理研究家の野口英世さん。
「道具は収納する主義なんです。出してあっても素敵なキッチンはありますが、私は面倒くさがり。調理台を拭くときに道具をどかす作業が入るのが面倒なんです。それに仕事場でもあるので、一度フラットに戻すことで前の日の仕事のことを頭から抜く。そのためにシンプルにしている感じです」
6年前にフルリノベーションしたキッチンは徹底的に動線にこだわった作り。収納も水回りで使うものは水回りに、火の回りで使うものは火の回りに。
「本当に使うものを動線に沿った場所に収納していけば、自然に整理整頓されたキッチンになります。そのとき使うものだけが目の前にあることで調理もスムーズになるはずです」
機能的なキッチンでは自然に調理中のアクションが最小限になり、散らかりにくい。さらに調理をしながら片づけを同時進行すれば、食べ終わった後の洗い物の負担も減る。
「でも片づけながらの調理を義務にしてしまうと嫌気がさしてしまいます。だから私はゲーム感覚で、レンジ加熱の間に調理道具を洗ったり、お鍋を火にかけている間にこの片づけを終わらせる!と、限られた時間で作業をこなし、楽しみながらクリアして達成感を得ています」
必ずしも片づけながら調理しなければならないわけではない。できる日もあればできない日もある。でも、やりたいと思ったときにはそれができる自分でありたいもの。
「パワーがない日は工程が少ないメニューをパターンとして用意しておくと楽になります。私の場合はフードプロセッサーに全部材料を入れて作るシュウマイがそのひとつ。無駄な動きが減って散らからず、時間も短縮できます」
キッチンに置くのは本当に使うものだけ。
仕事柄、常に新たな調理道具にアンテナを張っている。一般家庭に比べて道具や食器類ははるかに多い。だからこそ定期的な新陳代謝はとても重要。
「ここのキッチンにあるものは1軍か1.5軍。あまり使わないものはストックルームにあるプラスチックのコンテナに道具別に分けて一度待機させます。ずっと1軍の中に置いておくとスター選手が見えなくなってしまうので、一度その場から外してみるんです。それである程度時間が経ってやはりいらないとなったらまとめて処分したり、誰かに差し上げたりしています」
こうした2軍落ちのジャッジをしないと、鍋、フライパン、おたま、スライサーなどなど、キッチンに同じ種類の道具が溢れてしまうことに。
「私の場合、道具のいるいらないは第三者目線でジャッジしています。これあまり使っていないな、なぜ使わないんだろう?と。新しいものを買ったとき、器の衣替えをするとき、そういう目で見ていくと判断しやすいと思います。料理道具以外のものに対する考え方も同じです。少し引いた目で、この服をあまり着ないのはなぜ?と検証してみるんです」
なるほど。片づけとは、ものと自分との関係をその都度問い直し、向き合っていくことかもしれない。
●動線に沿った場所に本当に使うものだけを置く。
●使うもの使わないものを第三者目線でジャッジする。
●わずかな時間にゲーム感覚で片づける習慣を。
『クロワッサン』1075号より