くらし

84歳で住まいを建て替えた評論家・樋口恵子さんに聞く、老後の住まい。

  • 撮影・岩本慶三 文・塚原沙耶 イラスト・松元まり子

1.人生100年時代、家は2回必要です。住宅費や修繕費を頭に入れて、老後の計画を。

「住宅は一世一代では済みません」と強調する樋口さん。

「木造建築は寿命が30年といいますし、堅牢に作られた鉄筋住宅も販売価格は下がります。シニアの住生活に関する計画は、慎重に立てなければなりません」

住まいも人と同じように老いていくもの。修繕費をきちんと積み立てておくことを勧めている。

「自慢の家も、20年経つと金食い虫になってしまいます。年数が経てば修繕費がかかるのは当たり前。マンションに住んでいたら、管理費や維持費などを支払いますよね。一軒家でもそのつもりで、毎月積み立てましょう。月に4万でも、10年積み立てれば400万円以上になります」

2.荷物は無理に片づけない。その代わり、処分するための費用はきちんと遺します。

「娘に『本を半分にしなさい』と言われたけれど、とてもそんなに減らせない。いざ片づけようと思って見ているうちにいろんな記憶が呼び起こされて、涙が出ちゃって進みません。本を書くときに一所懸命集めた資料だったり、先輩後輩が書いて送ってくれた本だったり……。結局処分したのは4分の1だけです」

本以外の荷物も、特に「断捨離」はしていない。

「『何の選別もせず、死後に全部ごみとして処分していい』と娘に伝えました。手間をかけるけど、処分する費用は現金で遺します」

建て替えた住まいでも、書庫には本や資料がぎっしり。

3.「遺品分配委員会」を立ち上げました。 思い出の品々は、生き残る皆さんの楽しみに。

おしゃれが好きな樋口さんは、スカーフやアクセサリーを集めてきた。

「海外旅行のたびにスカーフを買うのがお決まりでしたから、タンスの小引き出し2つ、3つ分。アクセサリーもたくさんあります」

処分するのはもったいない。そこで、「遺品分配委員会」(仮称です)を設置。周りの人たち数人を「委員」に任命しているという。

「宝石を集めるほどの経済力はないけれど、アクセサリーなら」と樋口さん。

「葬式に来るにも、楽しみがないとね。みんなで楽しく、くじ引きしたりしながら分配してもらえたら」

娘には、「先に自分のほしいものを抜いてから、委員会に回してね」と伝えている。

「昔は『そんなおばさん趣味のものはいらない』なんて言っていたけれど、近頃は『少しも残らないかもよ』って。だんだん好みが近づいてきたみたいなんです」

少しずつ集めた色とりどりのスカーフ。それぞれに思い出がある。

4.終の住処は、その時の容態次第です。どうなるかは予測できません。

バリアフリー仕様に建て替えたものの、「終(つい)の住処(すみか)」だと決めているわけではないそうだ。

「『ピンピンコロリで死にたい』とよく聞くけれど、パタリと倒れて1カ月以内に亡くなるのは、10人に1人らしいのです。そうすると、倒れてから結構長引く場合が多いんですね。たとえ自宅にいたいと思っても、一刻も1人ではいられない状態になるかもしれない。その時の容態に即して、何がベストかを考えなければなりませんから、施設に入ることも選択肢にあります」

そのうえで、寝たきりになっても自宅で心地よく暮らせるように、「備え」は万全だ。

「窓際は石畳になっています。寝たきりになったら、ここにベッドを設置して、ポータブルトイレを用意すればいい。眺めがいいし、外にすぐ出られて、粗相をしても掃除しやすいでしょう?(笑)」

窓辺の石畳。フローリングへの段差はなく、車椅子でもスムーズに移動できる。
樋口恵子

樋口恵子 さん (ひぐち・けいこ)

70年代より評論家として活動。女性問題、福祉、教育、介護など、幅広い分野で活動する。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。『老〜い、どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』『老いの福袋』など著書多数。

『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)

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