「認知症になっても、これまで通り働いている人もいれば、10年普通に暮らしている人もいる。認知症というラベルを貼って、簡単に、すべてを認知症のせいにしないでほしい」
木之下さんはこれまで、5千人以上の認知症の人を診てきた。
「世の中には、いま認知症の人と、これから認知症になる人の2種類しかいない。それくらい、誰もがなる可能性を持っています。認知症になることは不幸になることじゃない。現実とかけ離れた認知症像を持っていることが、本人や周りの家族を不幸にするんです」
認知症になったときの一番の苦しみは、「以前とは異なる認知機能の変化があって、それは外からはわからない」ことだという。他人が見て、不可解とされるその人の言動は、自分だったら?という視点に立てば、抱えている不安や怒りが見えてくる。
「相手が何を考えているのか、何を欲しているのかを考えようとする姿勢、そしてその立場から相手に接しようとする姿勢。最初はそれが適切な言動に結び付かないかもしれないけれど、まずはこうした姿勢をとろうと努めることが、相手に対する『合理的配慮』です」