専門医に今あらためて聞く、認知症って何ですか?
いま65歳以上の人の4人に1人は、認知症かその予備軍。正しく知ることは、自分や家族の未来を変える第一歩です。
撮影・岩本慶三 文・殿井悠子 イラスト・松元まり子
いま、あらためて聞きたい認知症って何ですか?
「認知症になっても、これまで通り働いている人もいれば、10年普通に暮らしている人もいる。認知症というラベルを貼って、簡単に、すべてを認知症のせいにしないでほしい」
木之下さんはこれまで、5千人以上の認知症の人を診てきた。
「世の中には、いま認知症の人と、これから認知症になる人の2種類しかいない。それくらい、誰もがなる可能性を持っています。認知症になることは不幸になることじゃない。現実とかけ離れた認知症像を持っていることが、本人や周りの家族を不幸にするんです」
認知症になったときの一番の苦しみは、「以前とは異なる認知機能の変化があって、それは外からはわからない」ことだという。他人が見て、不可解とされるその人の言動は、自分だったら?という視点に立てば、抱えている不安や怒りが見えてくる。
「相手が何を考えているのか、何を欲しているのかを考えようとする姿勢、そしてその立場から相手に接しようとする姿勢。最初はそれが適切な言動に結び付かないかもしれないけれど、まずはこうした姿勢をとろうと努めることが、相手に対する『合理的配慮』です」
【世間の思い込みに、木之下さんが「ちょっと待った!」】
(みんなが考える認知症の実態)
●家族が認知症を疑った初期症状は?(複数回答可)
↓
(木之下さんはこう考える)
【代表的なパターンだけで 判断しない方がいい。 その人がそうした理由を まず、考えてみて。】
認知症の種類としては、アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型、血管性認知症の4つ。ただし、一般的に「症状」と言われているもので特定するのはむずかしい。「症状」と「機能低下」は違うものだから。
認知症というのは病名ではなく、記憶や注意力などの機能が低下し、生活に支障をきたす状態のこと。「物忘れ」とされる症状で、同じことを何度も言うときは、記憶力の低下があるのではなく、何かしらの不安を抱えているサインの時も。例えば、何度も病院に行く日を尋ねる人であれば、「明日病院です」というメモを貼るだけで、その行動はなくなるかもしれない。なぜ、その人はそうしているのか?という視点をもつことが大切です。
(みんなが考える認知症の実態)
●あなたがもし認知症になった場合、どのような行動をとりますか?(複数回答可)
↓
(木之下さんはこう考える)
【早い段階での診断は大事。でも、病院に通うことで、進行を遅らせることができるわけではない。】
進行を緩やかにする薬はあるけれど、病院に通うことの重要性はそこではない。気になるなら、早い段階で病院に行くこと。その理由は、事実を自分で受け止め、生きるための工夫を凝らす時間をもつことができるから。
記憶が飛んだり、幻が見えたりといった異変や、できていたはずのことができなくなった時にストレスや寝不足と言った理由が特になければ、認知症の検査を受けてみることを勧める。ちょっと検査を受けておこうかな、という心がけが、その後の人生を豊かにする。
アルツハイマー病の機能低下は、「脳の変化」以外の要因が ポイントとなることも
アルツハイマー病の要因は、脳の変化だけではない。老化に加え、周りの接し方、うつ病やストレス、生活習慣病、それと“あきらめ”が悪くする。最近は、そうした原因を減らせるので、進行するスピードも昔の半分以下になった。ストレスを減らしたり、うつ病や生活習慣病を防いだり、あきらめさせなければ、症状がすごく軽くなる。特に、本人が自信を持てると“あきらめ”の部分が全然違ってくる。
『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)
広告