「ひねくれ者なんですよ、僕は」と、滋さんが笑った。どうにも人がやらないことを、人があまりしたがらないことをやりたくなる性格なのだそうな。
「ずっとそうなんです」と笑いつつ、手を動かし続ける。「面倒でもなんでも、おいしくなるならいいかな、って」という言葉の潔さ。この思いにたどり着くまでには、いろいろな試行錯誤もあったことだろう。
豆腐屋の息子として生まれたが、初めから豆腐道に邁進したわけではなかった。小さい頃から料理が好きで、板前を志した時期もあった。その後いろいろあって家業を手伝うようになり、だんだんと豆腐作りの面白さを知っていく。決定打は、とある店の豆腐との出合いだった。
「なんだこりゃって思うほどにおいしくて。これからの時代でも残っていける豆腐はこういうものだと、強く思いましたね」
運よくその造り手と知り合うことができ、製造見学もさせてもらえた。そこで学んだこと、造り手の考えや姿勢が今も滋さんの中にあるという。
滋さんの豆腐には、消泡剤は使われていない。それも、先の造り手にならっている。
大豆に含まれるサポニンという成分は泡立つ性質があり、大豆を煮る過程でどうしても大量の泡が発生する。泡立ったままだと食感のよい豆腐はできず、また日持ちも悪くなるのだそう。だから消泡剤を用いて泡を消去するメーカーが多い。
「ただ、使わなくてもやれるんです。だったら、やろうと。消泡剤不使用ということを喜んでくれるお客さんもいますから」と滋さん。大変ではあるが、「手間のかかるやり方でここまで来ちゃったからね」とまた笑う。
「豆腐屋として生き残るポイントって、手間を惜しまずやるしか、自分にはないかなって」とポツリ言われたのが、妙に響いた。シンプルな真実に、あなたは豆腐を作ることで近づいてきたのですね。
滋さんが豆腐作りに関わるようになってから約20年、自分の代になって10年、現在の作り方に定まって7年になると教えてくれた。「おいしいものを作ろう。それだけなんです、考えてることは」。そのためにはどうしたらいいか、模索やトライは今なお続いている。