長野在住、横山タカ子さんが手本。食べて健康になる、上質な食事。
撮影・小林キユウ 文・芳沢祐子
一汁四菜の長寿食、これが私の食べ方の基本です。
長年にわたり、地元の豊かな食材を使った郷土料理を紹介している横山タカ子さん。基本は昔ながらの一汁三菜。
「私はそこに漬物を足して、“一汁四菜”をおすすめしています。夕食は一汁四菜をもう30年近く続けています」
健康を維持できているのはもちろん、美容面でも恩恵があったそうだ。
「30~40代前半はパン食が多かったんです。母の昔ながらの料理が嫌で。でも、体によい料理を研究していったら、自然と母の料理に戻っていきました。一汁四菜を続けていたら、年のせいと諦めていた、顔中にできていたシミがいつの間にか消えてしまいました」
現在の横山さんの肌にシミなどは見当たらない。白く健康的な美肌だ。
「健康にも美容にも大切なのは、“美腸”です。私の一汁四菜は、野菜と発酵食品がたっぷり。だから、腸の調子が整います。ある時、野菜の量を量ってみたら、1食で600gでした」
一食で! 厚生労働省が推奨する一日350gの野菜を摂ることすら大変なのに。しかし、おかずを3品、4品作るのは、なかなかハードルが高い。
「いいえ、大丈夫。コツは作り置きや保存食を上手に使うこと。そうすれば、ちっとも難しいことはないんです」
横山家のある日の献立を見てみよう。黒豆ご飯に具だくさん味噌汁、豚肉の白菜巻き、煮物、かぶの酢漬け、漬物。
「一見、手が込んでいるようですが、煮物は多めに作った作り置きですし、酢漬けや漬物は常に仕込んであるもの。ご飯は用意しておいて炊飯器のスイッチを入れただけ。この食事のために改めて作ったのは、メインの白菜巻きと味噌汁だけです」
食事は毎日のこと。簡単に手早く作れるものでなければ続かない。
「ご飯、味噌汁、メイン、煮物、酢の物、漬物。このスタイルに決めてしまえば、毎日の献立を考えるのは意外と簡単です。忙しい時はメインは買ってきたコロッケとフライ、煮物は缶詰を使って手早く作る。酢の物は市販のもずく酢とかでもいいんです。ほら、バランスのよい食事ができました」
昔ながらの郷土料理は、実はシンプルなのだと、横山さんは言う。
「私の郷土料理の師匠は生産者さんです。農家を訪ね、一番おいしい食べ方を教わります。野菜の郷土料理は全部シンプルなんです。なぜって、土が一段階前の調理をしてくれているから。その味を引き出すには、煮る、焼く、蒸す、炒める、揚げる、漬ける、調理法はどれかひとつでいいんです。それが良い野菜に失礼のない食べ方です」
シンプル調理と保存食が一汁四菜の鍵。その保存食のひとつ、横山さん流干し野菜も興味深い。
「私、野菜を今時の冷凍保存をしたことがないんです。漬物や干し野菜にすれば保存性が高まる上、太陽の恵みで旨みが凝縮し、ビタミンDも増えます。保存というものは、季節をその時の食材に閉じ込めるものだと思うんです。暑さ、寒さ、小春日和。季節を含んでいるからこそ旨みも栄養も増して、私たちの体を補ってくれます」
横山さんのすすめる干し野菜の切り方は、千切り。一番早く干し上がり、調理時にも早く戻せる。
「天気の良い日に干せば、6時間ほどで完成です。3分の1ほどに縮むので、省スペースで保存できます。味噌汁や煮物などに重宝しますよ」
水で戻せば和え物やサラダにも。
「寒さの厳しい信州では食物が収穫できるのは、たった半年間だけ。でも、溢れるほど採れるんです。だから、その恵みを大切に保存して、いかにおいしく飽きないように食べ回すか。それが、漬物や佃煮、干し野菜なんです」
小春日和は貯金できません。だから野菜に閉じ込めます。
使い忘れて傷んだ野菜も捨てないで。傷んだ部分を除けば干し野菜にできるそう。
素材はそのままが一番。人の手でする調理は、基本1回。
● 黒豆ご飯
【材料】(4人分)
米2合
黒豆50g
黒豆の茹で汁+水(合わせて)400ml
せり100g
醤油大さじ1
【作り方】
1.黒豆は洗って鍋に入れ、たっぷりの熱湯をかけて蓋をし、一晩置く。
2.1をそのまま軽く温める。米は洗っておく。
3.炊飯器に米、黒豆、黒豆の茹で汁+水を入れ、炊飯する。
4.せりは茹でて水気を搾り、みじん切りにする。醤油洗いし(せりに醤油をかける)、搾ってから3のご飯に混ぜる。
● 大根おろしの味噌汁
【材料】(4人分)
大根200g
油揚げ2枚
細ねぎ3本
水400ml
煮干し8g
味噌大さじ2~3
【作り方】
1.大根はすりおろし、油揚げはみじん切りにする。
2.鍋に水と煮干しを入れて沸騰させ、1を加える。大根はおろし汁も入れる。
3.煮立ったら、味噌を溶き入れてひと煮立ちさせ、刻んだ細ねぎをのせる。
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