とくに圓朝作の怪談噺を演じるときには全生庵へ墓参するのがならわしになっています。
歌舞伎では「四谷怪談」を上演するときにはお岩さんをお祀りした神社へお参りしないと祟りがあるといわれているそうですが、落語界では圓朝ものです。
私は墓参を欠かしたことがないので体験していませんが、あるぞろっぺいで知られる師匠がお参りせずに演じたところ、打上げのお店で二軒続けて人数よりひとつ多いグラスが出されたとか、家族が噺の幽霊と同じ病にかかったとか……。信心深くない私もさすがに怖いし、お客さまにも安心して怪談日和を楽しんでいただきたいからお参りするんです。
この圓朝忌、今年はコロナ禍でごく小規模でしたが、例年は一般のかたにも公開され、使い終えた古い扇子をお焚き上げして供養したり、圓朝師の位牌に向かって噺家が奉納落語(位牌に向かうため、本堂で聞いているお客さまにお尻を向けて演じるという珍しい形式。演者は毎年「やりにくい」とこぼします)を演じたり、興味深い催しですよ。