くらし

様変わりした街を眺めつつアクリル越しの収録へ。│ しまおまほ「マイリトルラジオ」

先日、2ヶ月ぶりに電車に乗り、仕事へ出かけた。外出自粛の間はスッピンで髪も伸び放題。身なりにかまわない生活に慣れてしまっていたので、地下鉄に乗って都会へ行くなど緊張した。化粧の順番はすっかり忘れていた。

改札にSuicaをかざす感触やホームからの景色も妙に懐かしく、行動一つ一つ噛みしめながら仕事先の半蔵門へ。

向かったのは、FMラジオのスタジオ。新刊のプロモーション出演だった。ここで、初めてアクリル板越しの収録を経験した。コロナ以降ラジオで「刑務所の面会のようだ」と揶揄されているのはよく聴いていたけれど。出入り業者なわたしは(TBSラジオは社員やスタッフ以外の会社の立ち入りを制限していた)もっぱらリモート出演だったので、その様子を想像するしかなかった。パーソナリティーの男性とわたしの間に立てられたアクリル板は意外と分厚く、ボルトでしっかり机に固定されている。

収録中はマスク着用OK。打ち合わせはソーシャルディスタンス……。外出自粛で家にいるばかりだったわたしは、浦島太郎のような気分ですっかり変わった世の中を眺めた。

電車に乗って、街の様子を眺め、全身で感じる空気。なんだかとても貴重な体験をしているみたい。

家ばかりにいて、話のネタも文章のネタも全部使い切ってしまっていた。

外に出るだけで、物語がひとつ書けそう。この気持ち、ラジオで話したくなったなあ。

しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。

『クロワッサン』1024号より

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