くらし

うつわの名前の付け方ルールを解説。知ればもっとうつわが好きになる!

昨今の営業自粛で新たにオンラインショップをオープンしたり、ウェブ個展を開催したりするうつわのお店が増えています。そこでうつわを買うときに知っておくと役に立つ、うつわの名前の基本を解説します。
  • 文・澁川祐子

うつわの名前に含まれる、4つの要素とは。

漢字がずらっと並ぶうつわの名前。ついつい読み飛ばしそうになりますが、うつわの名前には、それがどのようなうつわなのかという情報が詰まっています。

「伊万里 染付唐人文輪花なます皿」。伊万里焼は、肥前有田周辺(佐賀県有田市)で焼かれた磁器の総称。制作時期は推測するに、明治期か大正期。深さがあるので、汁気のある副菜を盛るときに重宝します。

たとえば、金沢の骨董屋さんで見つけ、そのユーモラスな絵付けに一目惚れしたこちらのうつわ。名前を細かく表記するとしたら「染付唐人文輪花なます皿」になります。

その名を分解すると、「染付」「唐人文」「輪花」「なます皿」の4つ。美術館などでは基本的に、この4つの要素を次のように並べて名前をつけます。

〈技法 + 文様 + 形状 + うつわの種類〉

技法:装飾の種類。この例では、白地に青で絵付けされたやきものを指す「染付(そめつけ)」が装飾技法に相当します。

文様:絵柄の説明。この例では「唐人文(とうじんもん)」とあることから、中国の人の姿を描いていることがわかります。

形状:うつわの形。「輪花(りんか)」は、花びらのように縁に切れ込みが入ったうつわの形を指します。丸いお皿などごく一般的な形状の場合は省略されます。

うつわの種類:最後は、「皿」「鉢」などうつわの種類。「膾皿(なますざら)」とは、江戸時代、野菜や魚介などを酢に漬け込んだ「なます料理」を盛るために生まれたうつわで、縁が立ちあがっていて少し深さがある直径15cmほどの皿を指します。

では、次のうつわはどういう表記になるでしょうか。

「照屋窯 イッチン唐草文8.5寸皿」。窯名や産地名、作者名などは最初につけるのが一般的。沖縄の恩納村にある照屋窯は、昔ながらの登り窯でうつわを焼いている窯元です。

「イッチン唐草文8.5寸皿」。「イッチン」とは、泥漿や釉薬(※)で、盛り上がったような線状の文様をつけること。つまり、イッチンという装飾技法で唐草文をつけたうつわ、ということです。

また、この例のように「8.5寸皿」と、うつわの種類の前に大きさを示す値が入る場合もあります。1寸は約3cmなので「3cm×8.5=25.5cm」。手仕事だと若干の誤差が出ますから、およそ25〜26cmととらえておけば間違いはないでしょう。

ただし、表記は必ずしもこの通りでなければいけないというわけではありません。お店によって、表記が異なる場合もしばしば。でも、基本的に構成要素は同じです。

最初は意味がわからなくても、名前と写真を意識して見比べているうちに「この言葉が出てくるうつわは好きかも」などと、気づくことは多いはず。うつわを楽しむための手がかりに、まずは「うつわの名前」に注目してみましょう。

※泥漿(でいしょう)は、粘土に水を混ぜたどろどろの液体のこと。釉薬(ゆうやく)は、うつわの表面にガラス質の膜をつくるために施す薬のこと。素地に水や汚れが染み込むのを防ぐとともに、さまざまに発色し、装飾の役割も兼ねます。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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