Netflix『マリッジ・ストーリー』好きにおすすめ。NYの面倒くさい家族をコミカルに描く『イカとクジラ』 。【エディターのおうち時間】
文 クロワッサンオンライン
この映画を観た第一印象は「これ、絶対実話でしょ!」というもの。ニューヨークに暮らすとある家族の崩壊を小さなエピソードの積み重ねで丁寧に描いた作品なのですが、そのエピソードがいちいちリアル。
大恋愛もカーチェイスも出てこないのに、やたらどきどきしてしまうのは、実在の家庭を覗き見しているかのような気分になれる、この圧倒的なリアリティのせいかもしれません。
監督・脚本は、今年のアカデミー賞で多部門にノミネートされ話題となった『マリッジ・ストーリー』の ノア・バームバック。いくつかのインタビューを読んでみると、やはりこの映画はノア・バームバックの自伝的作品のようで、彼自身、離婚した父と母の家を行き来する少年時代を送ったのだとか。
何かにつけ教養をひけらかし常に上から目線といういささか困った性格で、売れない作家の父親を「パパは高尚すぎて売れないだけ」と慕う思春期の長男役は、映画『ソーシャル・ネットワーク』でFacebookの創設者ザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグ。おそらく、監督自身を投影したキャラクターです。
この「高尚すぎて売れない」はずの父親への信頼があえなく崩れるシーンが笑いどころで、ウディ・アレン的めんどくさい文化系ニューヨーカーの話に弱い人にはたまらないはず。
たとえば、問題行動を起こした長男に学校がセラピストとのカウンセリングを勧めるシーンでは、「公立の教師は善良だが無教養で困る」「セラピストもせいぜい学士だろう」と吐き捨てた父親の映像にかぶせるように、イエール大で発達心理学の修士号を取ったハンサムなセラピストが登場したりします。
尊敬していたはずの父の駄目さに気づきはじめ、嫌いになったはずの母との小さな思い出が蘇る……複雑に揺れる少年の心の機微をナイーブに追った作品。個人的には映画のタイトルにまでなった、ニューヨーク自然史博物館に展示されている巨大な展示「イカとクジラ」の役割がリリカルで、何ならおしゃれ……! とさえ思いました。
本筋とは全く関係のない会話やエピソードもとってもチャーミングな、とりとめのなさも魅力の作品。素敵なラストシーンも必見です。(のぐぽん)
のぐぽん
『クロワッサン オンライン』ディレクター。戦国武将から昭和の名建築まで、ちょっと昔のものにときめきがち。美しい映像とキザなセリフが多い映画が好き。最後にガッツポーズするようなハッピーエンドよりは、「あのラストの意味は…?」と考えこんでしまうタイプの作品に弱い。ネットフリックスでは最近ドキュメンタリーを色々漁り中。スパイものへの関心も高まっております。
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