手仕事で作られた台所道具は、使い込むほどに味わい深くなる。その経年変化までもが愛おしいというイラストレーターの平澤まりこさん。
「木のターナーはラトビアで買ったもの。毎年6月に開かれる『森の民芸市』という野外のクラフトマーケットで、おじいさんが木工品を作りながら売っていたんです。先端の薄さやカーブが絶妙で、とても使いやすいですね」
木は生きているからこそ、木の道具は「育つ」。ターナー同様に歳月とともに育て、手になじんできたものがある。
「それは木工作家の山口和宏さんのカッティングボードです。8年前、山口さんと2人展をすることになって、山口さんの作品に私が焼きゴテで絵を描いたんです。自分の絵というよりは木から浮かび上がってきたものを描きました。その中の1枚を使っていますが、パンやフルーツを切って、無数についていく傷が自分の道具になっていく証し、そんな気がするんですよね」
ひとつひとつ手作りされる成田理俊(たかよし)さんの鉄のフライパンにも愛着は深い。鉄を繰り返し叩いて成形する鍛鉄という技法で作られたフライパンだ。
「無駄を削ぎ落とし、力強さを秘めつつも手仕事ならではの温もりを感じます。使うごとに油がなじんで、おいしく仕上がります。このまま食卓に出せるし、軽くて、扱いやすいんですよね」
使い込まれた暮らしの道具はいずれも潔くシンプルで、佇まいが美しい。