料理とは、すばらしい地の糧を反映する一つのハーモニーでなければいけない――ジャン・バティスト・トロワグロ(メゾン・トロワグロ創設者)
文・澁川祐子
料理とは、すばらしい地の糧を反映する一つのハーモニーでなければいけない――ジャン・バティスト・トロワグロ(メゾン・トロワグロ創設者)
1960年代から70年代にかけて登場した、フランス料理の新しい潮流「ヌーベルキュイジーヌ」。これを「新フランス料理」と呼び、日本人シェフによるレシピとパリのレストラン案内から、この新しい料理を紹介する特集が組まれています。
ホテル・オークラの調理部長(当時)を務める小野正吉は、「新フランス料理」の特徴を〈調理法が単純になったこと、材料の持味を生かした淡ぱくな味付け、ダイエットの傾向、1人前ずつ皿に盛りつけること〉などと挙げています。健康志向が高まるなか、濃厚で高カロリーの料理とは一線を画す、新たなフランス料理は一気に広まっていきます。
その新しいブームを牽引したトロワグロ兄弟は、〈品質、産地、鮮度、季節感など、材料選びの段階が、新料理の大きなポイント〉だと考え、とりわけ素材を重視していたと記事で述べられています。その原点となったのが、父であり、メゾン・トロワグロ創設者であるジャン・パティスト・トロワグロが語っていた「地の糧のハーモニー」というこの言葉です。
ここのところ食の世界では、もともとはワインをつくるブドウの土壌、あるいは生育環境を指す「テロワール」という言葉が注目され、他の作物にも転用されて広く使われるようになりました。ただその根本にある考え方は、ヌーベルキュイジーヌから脈々と引き継がれてきたものだといえるでしょう。まさに、料理名言の決定版ここにあり、という風格のひと言です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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