スタイリスト・石井佳苗さんの好きなものに囲まれた心地よい暮らし。
撮影・柳原久子 文・大澤千穂
石井佳苗さん流、広く心地よく暮らしを楽しむアイディア。
カーブを取り入れて、全体を広く見せる。
限られた空間でも閉塞感を極力減らして快適に。その知恵の一つが、家の中にさりげなく配された3つのカーブ。天井、キッチン、和室とダイニングを隔てる壁。
「年代ものの物件は梁や柱がたくさんあり、空間の中に直角が多いもの。その角が落とす影の存在感は意外に強く、きゅうくつさにつながりやすい。でも、角をカーブに変えれば、それほど圧迫感を感じることもありません」
キッチンは壁を作らずカウンター式にすることで、開放感たっぷり。ダイニングとひと続きに見えるため、より広く感じられて、自然光も取り入れられる。
和室をぐっとモダンでフレキシブルな空間へ。
「アジアを見直す」をテーマに作った、オリエンタルムード漂う和室の着想源は台湾。
「床から少し高さをつけた畳の部屋を台湾で見て、これは使いやすそうだなと思って。高さをつけたぶん、下には引き出し式の収納を作り付けて布団を入れています。普段は布団を敷いて寝室に、人が集まる時は食事の場に、とその時々で多目的に使えて便利です」
部屋の奥には、洗面・浴室に直接つながる扉を取り付けた。
「これがあると、寝室から洗面所に行くのもすごく楽。床下の収納は洗面所側にもあるので、そちらには掃除道具などを入れています」
家の顔である玄関こそ、こだわりの空間に。
「玄関こそ広く!」が、石井さんのポリシー。
帰ってきて一番に入る場所が狭苦しいのはいや。だから、小さな家でも玄関は広くとりました。最初は入って左手にウォークイン式のシューズクローゼットがあったのですが、それを取り払って場所を有効利用しています」
そのスペースには靴はもちろん、コートやストールなど外出時に身につける衣類のハンガー、そして鏡も。広々とした場所で身支度ができ、帰った時もすぐここで靴やコートを手入れできるという実用的な玄関になった。
洗面所とバスルームにもアートな気持ちを。
白と黒のタイルがコロニアルな邸宅を思わせるバスルーム。窓からは一番遠い空間だけど、太陽光をしっかりと感じて過ごせる。
「少しでも光を取り入れたくて、壁の高い位置に窓をつけました。小さな窓でも、ここからの光があるとないとでは開放感が違います。ガラス張りの浴室まで光が届くので、朝の入浴も快適です」
小さな絵、ドアノブにあしらわれた麻のタッセルなどの飾りも、鏡に向かう時間を楽しくしてくれる。猫のトイレもここにあるため、和室との間の扉には猫用ゲートも。
「猫のトイレはリビングにもあるんですが、猫たちはこちらのほうが落ち着くみたい(笑)」
コンパクトながら、人も猫も過ごしやすい空間になっている。
既製品でないものは別注したり、自作して。
暮らしのカスタマイズの達人として、DIY関連の著書でも知られる石井さん。猫のトイレを覆うカバー、木製の棚、ラダーハンガー。新居でも暮らしを実用面で支えるのは、ごくシンプルな形で手づくりされた品々。
「ここに棚が欲しいなとか、既製品でなかなか気に入ったものに出合えない……なんていう時は、ベニヤと釘でぱぱっと数時間で作ってしまいます(笑)」
と、こともなげに話す一方、「DIYは作品とは思ってない」と言い切る。確かに潔いほどシンプルで実用に徹した品々は、ひと目見ただけでは気づかないほど、風景に溶け込んでいる。
「DIYは見た目より機能のほうが大事だと思っているんです。だってデザインはプロのインテリアデザイナーの作品にはかなわないでしょう? それならその家具のじゃまをしない、主張のないものしか作りたくない。いっそ作ったことがわからないくらいが、DIYはちょうどいい気がします」
石井佳苗(いしい・かなえ)さん●スタイリスト。家具店カッシーナ・イクスシーを経てインテリアスタイリストに。著書に『Love Customizer2』(エクスナレッジ)ほか。
『クロワッサン』1017号より
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