『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』著者、牧野雅子さんインタビュー。「痴漢がどう扱われてきたのか、知ってほしい」
撮影・黒川ひろみ(本・著者)
「今、痴漢について語ろうとすると、冤罪や女性専用車両の問題に転換されてしまう傾向があります。まずはこれまで痴漢という犯罪が世の中でどんなふうに扱われてきたのかを知ってほしい」
そう語るのは、著者の牧野雅子さんだ。戦後から現在にかけて、痴漢にまつわる1万3000件もの雑誌や新聞記事を収集、分析した結果を一冊にまとめた。
日本では、職業婦人が増えると同時に電車通勤をする女性への痴漢が常態化するようになった。それを受け、男性誌では「男性はみな痴漢である」と性暴力を暗に容認する記事が目立ち始める。
’90年代に入るとタレントに痴漢被害を告白させるインタビューや、潜入捜査と題して女性編集者に痴漢被害をレポートさせる記事が増加。また、痴漢事件は必ずしも女性被害者と男性加害者の構図に限らないが、当事者が男性同士の場合、「ホモの痴漢」と同性愛嫌悪の視点で語り、性暴力ではないように印象づける記事も。総じて痴漢を犯罪とみなしていない。
「当時は痴漢専門誌まで発売されていました。痴漢を取り上げることはイケていて、最先端だったんです。メディアは痴漢を性暴力ではなく、性行為のバリエーションであったり、ポルノ的な一つの“文化”として捉えていました」
2000年代に入ると性暴力を直接娯楽として消費するような表現こそ減るものの、痴漢冤罪被害をテーマにした映画が公開され、社会問題として注目されるように。
「そもそも冤罪という言葉を広く使いすぎていると思います。本来は司法において無罪なのにもかかわらず、有罪判決が下されてしまうことを指しますが、事件発生時から、この語が持ち出されるようになってしまいました」
その結果、痴漢加害者が冤罪被害者であると言い張り、痴漢被害者が冤罪加害者にされるおそれも生まれてしまった。女性誌では痴漢被害を主張しても冤罪だと反論される可能性を念頭に置くようアドバイスする記事もあった。
〈読者にとっては、痴漢だと声をあげることのハードルがあがったように感じただろう〉
また、本書では強姦と強制わいせつ事件の犯人が「挑発的な服装をしているから」という理由でターゲットを定めることは、全体のわずか5%であることなどが示される。性被害を無くすために女性は肌の露出を控えろと指導されることがあるが、そのような性暴力の原因を被害者に帰する対策では解決には至らないと牧野さんは説く。
性暴力の研究そのものが必要のない世界になればいい。
「女性運動家の山川菊栄(きくえ)も言っていたのですが、女性専用車両の存在は、男性の性的モラルの低さを示しています。本当は、女性専用車両がなくても安心できるのが一番だと思います。現状を変えていきたいし、本当に変えなきゃいけない。いつか性暴力という研究対象そのものがなくなったらいいですね」
『クロワッサン』1016号より