時々、呪文のように唱えてみたくなる言葉に出くわすことがある。
「ピーナッツバター・ファルコン」「ピーナッツバター・ファルコン」。可愛いの、雄々しいの、どっちなの? とニンマリしながら、実際に、声にだしてみる(職業病?)。タイトルに無性に惹かれた作品は、たいがい、心にもすんなりフィットするものだ。
ダウン症のザックは、プロレスラーの養成所に入ることを夢見て、施設から脱走。漁師のタイラーは、兄を失い、孤独を抱えながら、やけを起こして追われる身に。そんな二人が出会い、旅をする。後半は、ザックを探しに来た看護師のエレノアも加わって三人旅に。ザックの夢は果たして叶うのだろうか?
懐かしい香りがした。アメリカ南部の海辺の風景、音楽、空気、どれをとっても私のDNAにはないはずなのに、安心して解き放たれていく。
昼はトウモロコシ畑に身を潜め、時にはスイカのヘルメットでじゃれ合い、手作り筏で海原を行く。夜は、砂浜で語らう、その野営の時間が距離を縮める。『スケアクロウ』『レインマン』、数々の名作ロードムービーを思い起こさせた。
ザックを演じる、ザック・ゴッツァーゲンは、障がいのある俳優たちのキャンプで監督の一人シュワルツと出会う。「映画スターになりたい」「無理だね」「じゃぁ、僕の映画を作ってよ」。そんなことから始まった今作は、当初17館での公開だったのに、6週目には1490館に。ピュアで力持ち、白いパンツ1丁で歩くザックは、ゆるキャラみたいにキュート。漁師タイラーを演じるシャイア・ラブーフはちょっと前まで繊細過ぎる少年のような印象だったのに、あらま、随分とワイルドになられて。この二人の絶妙なバディ感と、ゆく先々で出会う、とぼけてたり、怪しかったり、カッコよかったりするオジサンたちの格言めいた言葉に、温かくなる。「友達ってのは、自分で選べるファミリーだ」、頂きました。