ラジオから漏れる言葉は母と子の緩衝材になる。│ しまおまほ「マイリトルラジオ」
息子がまだ2歳だった頃。会話はなかなか成立しないが、こちらの言うことはだいたい理解できつつある時期。同時にイヤイヤ期を迎え、理不尽に駄々をこね、泣き出したり怒ったりすることも多かった。特に夕食前などは空腹も伴ってイライラは急上昇。わたしも台所に立ちながら息子の攻撃に付き合わされて、白目状態。そんな時。つけっぱなしのラジオから聴こえたのは何気ない番組内の会話。「ゴジラ」という単語が聴こえた途端、息子の動きが止まった。『いま、ゴジラって言ったよね?ゴジラの話してる?』、そんな感じで耳をすましている。気になる話題になると一旦音の出る作業やおしゃべりを止め、動作が固まることがよくあるが、まだうまく言葉が出ない2歳児もまったく同じであった。
ゴジラの話題が終わって駄々を再開したものの、さっきまでのイヤイヤのパワーは失われ、すぐに大人しくなった。そんな都合の良いことはたまたまで……と、思いきや意外と子供が好きそうなワードが出てくるのだ。ウルトラマンのイベント告知は定期的に入るし、「プール」や「チョコレート」なんてものにも反応する。料理の話題で「パプリカ」が出れば大好きな歌のことだと勘違いするし、進学塾の「TOMAS(トーマス)」が協賛の番組も「機関車トーマス」だと思い喜んでいる。
息子はいま4歳。理解力が進み、ますます反応する箇所が多くなった。ラジオが母と子の緩衝材になってくれるとは、意外で嬉しい発見。
しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。
『クロワッサン』1013号より
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