お正月は来るものでなく迎えるもの――編集部
文・澁川祐子
お正月は来るものでなく迎えるもの――編集部
狭くとも快適に暮らすためのアイデアを紹介する「狭さに挑戦」シリーズ。1978年の年末の号では、お正月の飾りつけがテーマです。
冒頭には、<床の間がなければ正月の飾りつけはできない、という固定観念から考え直してみよう>という一文。当時はまだ、和室と床の間がデフォルトとして考えられていたことがうかがえます。
昔ながらの日本的な居住空間が意識されつつも、新しい住まいの形として台頭してきたマンションの間取り。かぎりあるスペースで、どんなふうにお正月らしいしつらえをするか。まさに狭間の時期ならではの問いかけですが、誌面で紹介されているアイデアは、十分いまでも参考になるものばかりでした。
たとえば、床に板や塗りの盆などを敷き、茶室を見習って「置き床」をつくるという提案。置き床に壺などを置き、大ぶりの松や枝ものを生ければ、床の間がなくとも空間がしまるといいます。
あるいは小机を出し、ワインやグラス、漆の蓋つきの椀を並べ、輪飾りをあしらう。余っている椅子があれば、それを部屋の壁際などにつけ、花を生ける台にする。花にしても松が1枝あれば、あとは洋花でも十分。和洋折衷のアイデアも複数登場します。
新年の幸せをもたらす「年神さま」がやってくると、昔から考えられてきたお正月。形式にこだわらず、部屋の片隅でもいいから、ちょっとお正月らしい演出を取り入れてみる。その準備が、新たな気持ちで一年を「迎える」心も整えてくれるということでしょう。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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