「『やっぱり おおかみ』は当時、“こんな本は売りにくい”と言われた」
誰もが親しんだ作品を多く描き続けてきた佐々木マキさん。色鮮やかでちょっとシニカルなキャラクターは、大人にも多くのファンがいる。実は佐々木さん、もともとは風刺漫画家だった。
「『ガロ』という漫画誌でデビューして、ほかでもいくつか描いていました。でも、だんだん注文が減って、描く場所がなくなった(笑)。そんな時に福音館書店の当時の社長だった松居直(ただし)さんにお声がけいただいたんです」
経済的事情から飛び込んだ絵本の世界にはほかにも心を動かしたものが。
「絵本は印刷条件が良くて、それがずっと羨ましかったんですよ。漫画雑誌はすごく粗末な紙で、印刷も大急ぎでやったような雑なものでしたから。でも、描けるのはうれしいけれど、いったい絵本って何?という状態でした。僕は幼稚園にも行かなかったし、目にするものといえば貸本屋の漫画か、近所の映画館。絵本には全然縁がなかったです。だから、最初の絵本『やっぱり おおかみ』は、全く自由にルールもなく描いていた」
京都在住、仕事場と自宅を分けたことがないという佐々木さん。部屋におおかみとムニエル発見!
佐々木さんの本には、おおかみがよく登場する。
「おおかみって、かわいそうじゃないっていうか、ひどい目に遭わせても大丈夫な感じがするんですよね(笑)。僕の漫画にもわき役で時々出していたので、そのままスピンオフさせました」
とはいえ『やっぱり おおかみ』のおおかみは、孤独でナイーブで、ちょっとかわいそう。
「この本は印刷段階で、営業の人たちから“こんな絵本は困る、売りにくい”という声があがったそうです。やはりみんな仲良くとかそういうのが売りやすいんでしょうね。また、松居さんは絵本の描き方を全然知らない僕に“これを見て参考にしなさい”と、モーリス・センダック『まよなかのだいどころ』の原書をくれました。見たら、コマ割りもあるしフキダシもある。じゃ、漫画描くのと同じでいいんだって。よくやらせてくれたと思います」
そんな逸話からも、他の絵本作家とは少々違った存在であることがわかる。ドイツ占領下のフランスで活動したレジスタンス、マキ団からつけたというペンネームもそう。女性と間違えられることは懸念しなかったのだろうか。
「しなかったし、されてもいいと思ってました。“女性にしては力強い絵を描く”なんて褒められたりして(笑)。僕も若いころは世の中のいろんなことに怒っていて、風刺漫画を描いていた。でも、だんだんそういうのを描いている自分が嫌になってしまって……。人に対して怒ったり憎んだりせず、自分の大好きな世界を描きたいなと」
音楽も映画も古いものが好き。自ら録画した映画DVDは手書きラベルが美しい。