くらし

やさしく味わい深い近代美術の秀作。三菱一号館美術館 『印象派からその先へ─』世界に誇る吉野石膏コレクション展

  • 文・知井恵理
ポール・セザンヌ 《マルセイユ湾、レスタック 近郊のサンタンリ村を望む》1887-79年、油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション 立体感が希薄なほど強烈な陽光に照らされたマルセイユ湾岸地区の鮮やかな風景を、独自の技法で表現しようとした一作。

名だたる建材メーカー、吉野石膏が、実は国内有数の西洋絵画コレクションを有していることはご存じだろうか。

今回は、ルノワール、モネ、ピカソなどの粒選りの作品、計72点を一堂に公開する初の機会となる。

全体は3章に分かれており、19世紀後半から20世紀までの近代美術の大きな流れを体感できる構成だ。

第1章では、印象派の誕生からポスト印象派へ至る過程を辿ることができる。コロー、バルビゾン派のミレーから始まり、マネ、そしてモネ、ルノワールら印象派を代表する芸術家の作品がずらりと並ぶ。

「大作というより、その時代を代表する画家の重要な作品が揃っていて、とても見応えのあるコレクションです」(三菱一号館美術館学芸員・岩瀬慧さん)

なかでも、ルノワール、ドガ、カサットのパステル画は必見。

「印象派とひとくくりにされがちな3人ですが、3作を並べて比較できるような展示にしたことで、それぞれの独自の技法や特徴が浮かび上がり、印象派作品がいかに豊かであるかをより深く堪能できると思います」

ポスト印象派と呼ばれるセザンヌの風景画も、実に味わい深い作品だ。

「上の作品の左側に見られるように、前景を大胆に抽象化して奥行きを曖昧にすることで全体が平面的な印象になり、セザンヌが印象派を超えて形態の単純化を模索していたことがうかがえます。独自の表現の確立に至る過渡期の重要な作品です」

第2章では、マティスやピカソなどの作品から、モダンアートの萌芽(ほうが)を感じ取ることができる。

「パステルを用いたピカソの風景画は非常に珍しいのでお見逃しなく!」

第3章では、エコール・ド・パリ(パリ派)と呼ばれる作家を中心に紹介。シャガールの初期から晩年までの10点の油彩画は圧巻の一言だ。

明るい色彩のやわらかな筆致の優品たちは、親しみやすくどこかやさしい気持ちを覚えさせる。ぜひ間近に見ながらじっくりと満喫したい。

エドガー・ドガ 《踊り子たち(ピンクと緑)》1894年、パステル/紙 吉野石膏コレクション チュチュの真上に当たるハイライトの描き方、身体の表現、画面端で人物を切り取る大胆な構図など見どころが多い秀作。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》1887年、パステル/紙 吉野石膏コレクション 輪郭を線で描いているが、パステルによる描写で柔らかな印象に。髪の艶、肌の透明感、ドレスの質感なども見事に表現。

三菱一号館美術館 
「印象派からその先へ─世界に誇る吉野石膏コレクション展」 〜2020年1月20日(月)

東京都千代田区丸の内2-6-2 TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル) TEL.10時〜18時(入場は閉館30分前まで。金曜、第2水曜、会期最終週平日は〜21時) 月曜(12月30日、1月13日、1月20日は開館)、12月31日、1月1日休館 料金・一般1,700円

『クロワッサン』1010号より

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