くらし

【堀本裕樹さん×向井 慧さん 対談】俳句のことを、ゆっくり話そう。

  • 撮影・天日恵美子 文・三浦天紗子

不要な言葉は、その句から、浮き上がったように見えます。(堀本さん)

堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)さん●1974年、和歌山県生まれ。「蒼海」主宰。『俳句さく咲く!』(NHK Eテレ)選者。『俳句の図書室』『NH K俳句 ひぐらし先生、俳句おしえてください。』など著書多数。

向井 あと悩ましいのが、ここは「に」がいいのか「を」がいいのか。この2文字は本当に入れたくて入れたのか十七音に収めたいから入れたのか。それをぐるぐる考えたまま着地できないときです。自分をごまかしながらやっても、そういう気持ちが残った句はやっぱり評価されないんですね。

堀本 僕もそういうところを句会では指摘します。見る人が見ればすぐわかります。十七音しかないから、いらない言葉は1文字でも2文字でもそれが浮いて見えちゃうんです。

向井 浮いて見えるってどういうことですか。すごくないですか。

堀本 なんですぐわかるかと言うと、一般の人と見ている俳句の数が圧倒的に違うんですよ。僕は今年、いちばん多いときで、1カ月に2万句見たんです。NHKの『俳句さく咲く!』では平均すると月に4000句ぐらい応募があるんです。そうすると否応なく、一句の中のいらない言葉が見えてくるんです。

十七音で伝える深遠な世界。向き合う余地は尽きない。

向井 逆に、それだけの量を見ていると、いざ自分が詠もうとしたときにじゃまにならないですか。

堀本 類想類句といって、同じような発想の同じような句をたくさん見てしまう。確かに頭に残ります。それは、プロの俳人としてはなんとかしないといけない。できるだけ頭の中をリセットして、好きな俳人の句集や小説をじっくり読んだり、美術館に行ったりもしますね。プロの創ったよきものを見て頭をほぐします。

向井 そうやって俳句モードにリセットするんですね。僕も、やってみて初めてわかりましたが、句を作るのって細部まで自問自答の連続ですよね。とにかくやって吟味するしかない。深いですよね。十七音に、こんなにも向き合う余地があるのかと驚きます。

堀本 でもお笑いも同じじゃないですか? あくまで一視聴者としての意見しか言えませんが、ボケでもツッコミでも、独特の間とかボキャブラリー……、その芸人さんの個性とテンポとが噛み合っていて、初めてウケる。自分にないものを引きずり出してやろうとしても、自分のものにならないですよね。そう考えると、俳句とお笑いには共通項があるなと。芸人さんと話していていつもそう思うんです。

向井 ですね。僕もそうでしたが、お笑いを目指す人のほとんどがボケに憧れるんですよね。でも養成所は面白い人ばかりだから、自分はボケで闘うのは無理かもと思ったことがあったんです。でもお笑いやりたいし……、それでツッコミならある程度、勉強と努力でいけるかなと一生懸命ノートにメモするようになったり……。

堀本 こうしてお話ししてみて、向井さんに俳句のことをもっとお伝えしたいなと思いました。やると決めたら、どんどん吸収してくれそうですね。

向井 これまでも努力型の闘いを自分に課してきました。俳句でもそのやり方が自分には合っているなと思います。

堀本 やっぱり思った以上に、勉強家だ(笑)!

対談を終えて、堀本さんが詠んだ句

【 差し入れを食する向井さん 】
サンドイッチさやかに摘む美男かな  裕樹

『クロワッサン』1009号より

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