付き合いのある税理士事務所に電話をした時のこと。電話口で対応してくれた女性が担当の税理士にかわる直前、とっさに「いつもラジオ聴いています。お声がまったく同じで感激しました」と、言ってくれた。不意をつかれたわたしは、税理士さんが電話に出てからもしばらくフワフワと浮ついてしまい、なかなか話を進めることができなかった。
「声」で身元が知れる、というのはなんだか恥ずかしいものだ。顔は化粧をしたり、表情を意識したりできるけれど、声や話し方は見抜かれやすい。緊張している時、すましている時、気取っている時。完璧に振る舞えば近づきがたい人に聴こえる。隙を見せない人のラジオって、なんだか物足りない。
昔は声から想像するイメージとの答え合わせが好きだった。中学時代、まだ無名だった岸谷五朗のラジオを顔が知らないまま聴いていた。ある日、テレビの深夜番組にゴローさん(リスナーはそう呼んでいた)が出ると知り、夜中まで起きて観ることにした。ワクワクドキドキ…ゴローさんて、どんな顔なんだろう…ラジオでは自分を「馬面」と言っていたけれど…え? 若い頃の草刈正雄を思い描いていたわたしは、そのギャップにしばらくショックを隠せなかった。テレビの中で話している男性の声は間違いなくゴローさん。
「たしかに…馬には似てる」
その週のラジオは「思った顔と全然違った」という苦情FAXとハガキが殺到していた。こちらが勝手に想像膨らましていただけなのに。不憫なゴローさんであった。