くらし

「声」で身元が知れるとなんだか恥ずかしい。│しまおまほ「マイリトルラジオ」

付き合いのある税理士事務所に電話をした時のこと。電話口で対応してくれた女性が担当の税理士にかわる直前、とっさに「いつもラジオ聴いています。お声がまったく同じで感激しました」と、言ってくれた。不意をつかれたわたしは、税理士さんが電話に出てからもしばらくフワフワと浮ついてしまい、なかなか話を進めることができなかった。

「声」で身元が知れる、というのはなんだか恥ずかしいものだ。顔は化粧をしたり、表情を意識したりできるけれど、声や話し方は見抜かれやすい。緊張している時、すましている時、気取っている時。完璧に振る舞えば近づきがたい人に聴こえる。隙を見せない人のラジオって、なんだか物足りない。

昔は声から想像するイメージとの答え合わせが好きだった。中学時代、まだ無名だった岸谷五朗のラジオを顔が知らないまま聴いていた。ある日、テレビの深夜番組にゴローさん(リスナーはそう呼んでいた)が出ると知り、夜中まで起きて観ることにした。ワクワクドキドキ…ゴローさんて、どんな顔なんだろう…ラジオでは自分を「馬面」と言っていたけれど…え? 若い頃の草刈正雄を思い描いていたわたしは、そのギャップにしばらくショックを隠せなかった。テレビの中で話している男性の声は間違いなくゴローさん。

「たしかに…馬には似てる」

その週のラジオは「思った顔と全然違った」という苦情FAXとハガキが殺到していた。こちらが勝手に想像膨らましていただけなのに。不憫なゴローさんであった。

しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。

『クロワッサン』1007号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は本体のみ(税抜き)の価格です。税込表記の商品は、配信日が2019年9月30日以前の記事は消費税8%、2019年10月1日以降に配信の記事は10%(軽減税率適用のものは8%)が含まれています。