くらし

魂の在り処を探して……’80年代を代表する女性映画!│ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『四季・奈津子』。1980年公開。東映作品。DVDあり(販売元・東映)

“女の時代”と言われた’80年代。五木寛之のベストセラー小説『四季・奈津子』を刊行翌年の1980年(昭和55年)に映画化した本作は、新しい時代の予感に満ちた、幕開けに相応しい一作となっています。

博多で暮らす奈津子(烏丸せつこ)は四姉妹の次女。3年つき合った達夫(風間杜夫)とは結婚するつもりでいたが、偶然知り合ったカメラマン(本田博太郎)に「君の写真を撮りたい」と誘われ、達夫の反対を押し切って東京へ。そこでケイ(阿木燿子)という不思議な女性に出会い……。

20代前半で結婚する女性が多数派だった時代。結婚こそが女の幸せという固定観念が今よりはるかに強固な上、妻となり母となることは、自分個人として生きるのを手放すことでもありました。そんな生き方を、「なんだかつまらなくなっちゃった」と言ってのける奈津子。それは多くの女性がうすうす感じていた気持ちを代弁するものでした。

人はみんな、自分を発揮して生きたい。しかし、結婚という安定コースを拒否した先に広がるのは、道なき荒野。自分を持て余した奈津子が、手探りで進み、なにかに近づいていく、女の冒険が描かれます。

それにしても“自分を持て余した女”を演じるのに、烏丸せつこほどの適任者もいない! なぜなら一目瞭然、これだけ若く美しい完璧な肉体を持っている自我のある女性が、自分を退屈な場所に閉じ込めておけるはずがないから。女が持つパワーの中でも、若さと美は最強のカード。才能です。それを活かさないことは自分を殺すことでもある。自分自身を生かすため、彼女は街を出るのです。

心の揺らぎを丹念に描く本作は、会話もヌードも自然でどこかフランス映画の趣が。男によってではなく、ケイという女との出会いで自由に目覚めるところもシスターフッド的。そして烏丸せつこの裸体は、アート以上にアート。自分自身に挑むかのようなヌード撮影シーンは、至高の美しさです!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』1003号より

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